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第2章  九州の大一揆編 炎の魔人と聖火の神

早朝、肥前雲仙岳麓のツクモの宮殿で、美羅は成政と門の前で出陣準備をしていた。
「成政様、ついに豊臣軍が攻めて来ますね」
「ああ・・・本当に、秀吉と刃を向けるとは。間者の情報だと、あやつは山陽道を通り博多を目指すそうだ」
成政は秀吉を討つ気でいた。美羅は心臓の鼓動が高まるのを感じ、彼に言った。
「それじゃあ、あたしも成政様と共に博多へ行きます」
成政は有難いと美羅に笑いかけると、彼女は顔を赤くしながら告げた。
「成政様・・あたしは成政様の志に感化されました。あなたの力になりたいと、どこまでも付いていきます。でも、どうか自分を見失わないでください」
成政様は物事に慎重で神経質な面もあるが、父のような温かい優しさを持っていた。美羅はツクモの妻でありながらも、心は成政に揺らいでいた。成政は彼女の気持ちに気づいたのか、無意識に小さい体を抱きしめた。
「お前がこんな俺を慕うなど信じられぬが、ありがとう。美羅は先に太宰府を制圧して欲しい。くれぐれも無茶はするなよ」

成政の不器用な言葉と笑顔は一瞬、父親の姿に重なって見えた。美羅は、銀の手鏡を成政に渡した。
「これは、あたしからの御守り。ツクモ様からの御加護もありますよ」
西洋ではルビーと呼ばれる、情熱の紅い宝石は成政の凛々しい顔を映していた。
「素敵な鏡をありがとう、美羅。これは肌身離さず、大切に持っているよ」
成政は笑顔で鏡を受け取り、筑前の博多で秀吉を迎え撃つ為に出陣した。


一方、御伽勇士達も『トワ・パライソ』討伐の出陣準備をしていた。球磨は別府の湯治場で療養している宗麟の元を訪れ、討伐前の報告をした。天草の子供達を別府へ連れて来た時に、宗麟もこっそり連れて来ていた。
「宗麟殿。ご容態は如何ですか?これから俺達は、ツクモの討伐へ行きます」
小屋は深き森の中に建っており、直ぐ側に温泉が沸き、小川のせせらぎが聞こえ、療養と隠れるのに最適な場所である。宗麟の顔色は、暁家の廃屋敷で療養してた時より見違える程良くなっていた。
「忙しい中、わしの為に来てくれて、御足労だったのう・・球磨」
「苦労なんて思ってないですよ。宗麟殿に言うべき事がありまして・・・」
球磨は宗麟に、自分の名前は暁煉太郎。紅史郎の生き別れの兄だった事を、全てうち明かした。宗麟は、やはりそうだったかと、驚いたり戸惑う事無く、冷静に真実を受け止めた。
「球磨よ・・わしを・・大友家を恨んでおるか?何故、わしを見殺しにしなかった?」
「正直、兄弟を引き離されたのは辛かったですが、その辛さを乗り越え、今の俺がある。だから、宗麟殿を恨むなんて考えた事ないですよ」
球磨は宗麟に明国の健康茶を飲ませた後、出発すると告げた。
「球磨・・今更わしが言うのも変だが、どうか、紅史郎と分かり合えるように、陰ながら祈っているよ」
球磨は笑顔を宗麟に向け、一礼し小屋を出た。
外には桜龍と湘とモトスと千里が待っていてくれた。湘が先に話しかけた。
「話はもう良いのか?球磨」
球磨は皆が小屋に来ていた事に驚いた。モトスは穏やかに笑いながら言った。
「俺達の気配に気づかぬとは、お主もまだまだだな」
「本当に気付いていなかったのですね」
千里は、球磨が宗麟の体を、とても気遣っていた事を知っていた。桜龍は、外に置いていた西洋槍を球磨に渡した。
「くまちゃん、気を抜いちゃあいけねーぜ。武器を敵に盗られちまうぞ」
「へへ!悪いな桜龍」
球磨は照れながら武器を受け取り、天高く掲げた。桜龍はニヤッと笑いながら告げた。
「どんな過去があっても、くまちゃんはくまちゃんだ。だから、自信を持って、ツクモや紅史郎と対峙しようぜ!!」
桜龍の深い言葉に3人も強く頷いた。球磨は『ありがとうな』と言った直後、桜龍の頭をぐりぐり押した。
「だーかーらーくまちゃん言うな!!」
「いてて・・・この力をツクモの野郎に使って」
桜龍と球磨の子供ぽいやり取りに3人は呆れ笑い、別府の街へ戻った。

球磨は宗麟の元へ向かう前に、湘以外にも仲間に自分の過去と、紅史郎とは本当の兄弟だった事を明かした。皆は隠していた彼に怒ることも、驚くことも無く素直に受け入れてくれた。
「ありがとうな・・・皆」
涙もろい球磨は、涙を我慢しながら皆に礼を言い、一段と勇士達の絆が深まった。
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