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第1章 異説 武田の残党狩り編 桃源郷に集う勇士

 竜王の拠点で、モトスは残党兵や民たちを連れ、甲斐の国を脱出しようと計画していた。
「このまま梅雪や織田兵と戦っていては相手の思うつぼだ・・・。我々の疲労や士気の低下を機に大軍で一気に襲撃してくるだろう。そこで、皆を連れ甲斐の国を出ようと考えている」
兵士や民たちはモトスの考えに戸惑いざわざわとした空気であった。
「・・・しかし、故郷を出て他国に住むというのも・・・」
「新しい土地で畑を耕すのか・・・でも、織田兵に畑を荒らされてしまったしな・・・」
「信玄公や勝頼様と育った甲斐の国を離れるのは・・・」
モトスは民1人1人の困惑した表情を真剣に見ながら、優しく諭した。
「何も、甲斐の国に戻れないわけではない。梅雪や織田兵を倒し、平穏が戻れば国に帰れる。だから、しばらくの間だけ、相模や武蔵、遠くて奥州まで脱出させたいと考えている!」
モトスの決断で民たちはしばし、甲斐の国を離れようと決心をした。
「それでは、準備ができ次第、竜王から南下して、身延や下部の方に下り、青木ヶ原樹海を通り、吉田集落へ出よう。そこでも戦っている武田兵や民たちもいる。彼らと合流しよう!!」
モトス率いる兵士や民たちは竜王拠点を放棄し、南へ逃げて行った。


その頃、黒髪褐色肌の大柄な青年、球磨(きゅうま)は駿河から北上し、近くに富士山を見渡せる身延の道を富士川に沿って歩いていた。すると、清らかな風が吹き始めた。一瞬、甲斐の地で戦っているモトスの姿が目に見えた。
「甲斐の地で残党狩りに苦しんでいる民が多くいる・・・。そして、1人で戦っている忍びもいる。こんなところで後れを取るわけにはいかねーぜ!!」
青年は風が導く方向に速く歩み始めた。


一方、北条家に仕える貴公子風の青年、湘(しょう)は相模国北西の丹沢から道志川を泳ぎ、甲斐の国へ侵入した。
「私の能力は水の加護を受けており、海や水辺を人魚のように泳げる。この力は隣国への侵入に役立つな・・・母さんありがとう」
湘は一瞬、人魚の姿の女性が脳裏に浮かび、自分の能力と共に少し哀愁に帯びた表情をしていた。
すると、彼の元にも清らかな風が吹いてきた。
「おやおや。これは、モトスの放つ精霊の風とやらかな。私を導こうとしているのだな。・・・モトスとは北条と同盟していた時には共に戦っていたけど、同盟を破棄してからは敵として交えたこともあったな・・・。」
どうやら、湘とモトスは知り合いらしい。かつて、武田家と北条家と駿河の今川家が甲相駿三国同盟を組んでいたことがあったが、今川義元亡き後に、武田家は勢力を拡大させようと同盟を破棄し、北条とは敵対してしまった。さらに、長篠の戦以降、武田家の財政難により、勝頼は、越後の上杉家での家督争い(1578年の御館(おたて)の戦い)により、本家の上杉景勝に協力したのである。そして、北条氏政の弟でもあり、双葉の兄でもある上杉家の養子となった景虎(三郎)は、家督争いに敗北し、自決してしまった。そして、ますます武田家と北条家の関係は悪化し、北条は双葉の安否が確認でき次第、織田家の邪魔さえなければ、甲斐の国を吸収しようと考えていた。
(三郎の死は今でも無念だと感じる・・・。あの者とは良く酒を飲み会話が弾んだからな。・・・今でも勝頼や武田軍が憎く感じてしまう時もあるが、今は私には双葉殿を救出するという任がある。利害の一致で手を組んでも良いかな)
湘は複雑な心境ではあったものの、直ぐに吹っ切れた。そして、風が導く通り、西の河口湖の方へ向かった。


第3話 完
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