店長のぼやきいろいろ

スキ!御礼文のオマケです!

2024/09/29 23:00


「店長、今日もお疲れ様でした!」
「織姫ちゃんお疲れ様、いつも遅くまでありがとう!これ、売れ残りだけど、お月見ゼリーだよ!」
「わぁ、いつもありがとうございます!お先に失礼します!」

着替えを終え、「ABCookies」を出てすぐに、鞄からスマートフォンを取り出すあたし。
そのランプが点滅していることに、あたしは胸を躍らせる。

「…あ、黒崎くんからLINE来てる!」

LINEを開けば、そこにあるのは可憐なコスモスの写真だった。





《誕生日が終わる3時間前に・オマケ》





誕生日の日に繋がった、あたしと黒崎くん2人だけのLINE。

黒崎くんはよくここに、写真を上げてくれる。

きれいな青空。
お洒落な街角のカフェ。
美味しそうなたこ焼き。
可愛い雑貨屋さん。

全部、『井上の好きそうなヤツ』って。




「…ふふふ。嬉しいなぁ。」

閉店した薄暗いお店の前で、一人でニヤニヤしちゃうあたし。
仕事の疲れも、全部吹き飛んじゃうよ。

黒崎くんが、あたしのために撮ってくれた写真。
そこに黒崎くんは写っていないのに、どの写真からも不思議なくらい「黒崎くん」を感じる。

お返しになれば…って、あたしも時々写真を送るけれど、行動範囲が基本職場と自分の部屋しかないあたしの写真は、どうしても単調になりがち。

新作のパンですよ、とか、あたしが焼いたクッキーですよ、とか、今晩のおかずにって焼いた、今年初のサンマです、とか。

黒崎くんに「食い物ばっかだな」って返信もらっちゃったんだっけ。

「…あ!そうだ!」

店長からもらったゼリーのことを思い出し、スマートフォンから顔を上げる。
夜空を見上げれば、そこにぽっかり浮かぶのは、レモン色のまん丸お月様。

「わぁ…きれい…!今日、中秋の名月だもんね!」

あたしは、早速スマートフォンを夜空に掲げ、パシャリ…写真を1枚撮ってみた。
けれど。

「あれ…。あんまり綺麗じゃないかも…。」

あたしが思っていたのと違う、画面の中のぼやけた満月。

その後も、何度もシャッターを切ってはその出来栄えを確認するけれど、どの写真も今あたしの目の前にある満月の美しさを伝えてはくれていない。
色も、輝きも、大きさも…全部「なんか違う」。

「月って、写真に撮るの難しいのかな…。」

月は、あたしにとってやっぱり特別。

どうしたって、同じ名前の斬魄刀を振るうオレンジの彼を、思い出させるものだから。

だから、あたしの目の前にあるそのまま、この神々しい中秋の名月を、写真に収めて黒崎くんに送りたいのに。

「うーん…。」

どの写真の中の満月も、何だか写真に収めた途端、その輝きは色褪せ、雄大な存在感は感じられなくなってしまって。

「やっぱり、本物の月には敵わないんだなぁ。だからこそ、みんな夜空を見上げてお月見するのかもしれないね。」

あたしはそう呟いたあと、黒崎くんとのLINEに満月の写真の1枚と、「中秋の名月です!でも、本物の方がずっと綺麗だから、見てみてね!」というメッセージを送った。

スマートフォンの操作は、相変わらず苦手だけど。
メッセージを打つのも、LINEを送るのも、黒崎くんとのLINEのやりとりのおかげで、だいぶ速くなったんだよ。

「さて、帰りますか…ひゃっ!」

鞄にしまおうとしたスマートフォンが、それを拒むかのように震え出す。

あたしがスマートフォンをタップすれば、黒崎くんからのLINEの返信。




『中秋の名月とか、忘れてた。月、綺麗だな』
「うん!写真には上手く撮れなくて。やっぱり本物がいちばんだね」




黒崎くん、あたしのLINEに気づいて、ちゃんと月を見てくれたんだ!

今、この瞬間にも、黒崎くんと同じ月を見上げているんだ…ってわかって、あたしの胸がまたふわっとあったかくなる。




『仕事上がりか?』
「うん!今から月見しながら帰宅します」
『月見、付き合う』


「…え?」

数十秒後、あたしが夜空を見上げれば、綺麗な満月をバックに、オレンジの彼が死覇装を靡かせ立っていた。





(せっかく月見するなら、本物の月をあなたと一緒に)




「よ。やっぱり、井上一人でこんな夜遅いのは心配だしな。」
「え…でも、いつも悪いよ…。」
「いいんじゃねぇ?月見も、一人より二人の方が、さ。」
「…あ!そうだ!黒崎くん、今日はね、お月見ゼリーがあるの!よ、良かったら、お月見しながら一緒に…!」




(そして、二人でお月見しながらゼリーを食べます)



(2024.09.29)

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