日記

アン・ブックスの感想

2025/04/30 20:27
だいぶ期間があいてしまい申し訳ありません。
思ったよりも日記が長くなってしまい、完成に時間がかかってしまいました😅

ようやくアン・ブックスとして知られているシリーズ(本当はもう少しあるのですが、今回は村岡先生が訳している『アンの娘リラ』までしか持っていなかったので、ここまでです)を読破したので、今日はその感想を独断と偏見まみれの内容でざっくり書いていこうと思います。
(※かなりネタバレが入ってます。また、ざっくりなので取りこぼしているネタもたくさんあります。)

今は新訳版として松本侑子先生の訳が販売されており、こちらのほうが原作に近いニュアンスの訳で注釈も多くわかりやすいと評判なのですが、私はどうしても村岡花子先生が訳した古風な日本語の文章が好きだったので、いくつか誤訳や意訳があることを承知で先にこちらを読むことにしました。

現代ではほぼ使わないような、綺麗な古い日本語の言い回しで彩られた描写が美しかった反面、たしかに読んでいて違和感があったり、原文でどう書いていたのか気になる訳が多々あったので、いずれ松本先生のバージョンも読んでみようと思います。

①赤毛のアン Anne of green gables
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言わずと知れた名作です。
私がはじめて『アン』に触れたのは高畑監督による世界名作劇場版のアニメでしたが、こうして読んでみると、あらためてあのアニメ版は非常に原作に忠実に描かれていたことがわかります。
シリーズの中でもっとも「アン」が生き生きと、また主人公然としている一冊でもあります。
やはりアンといえば、この癇癪持ちでトラブルを起こしまくる未熟な少女のアンが思い浮かびます。

②アンの青春 Anne of Avonlea
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アヴォンリー村でアンが教師になる巻です。
感情の起伏が激しかった少女のアンは影をひそめ、この巻のアンは落ち着きのある教養深い理想的な女性として描写されています。
あまりにも完全無欠なので、『赤毛のアン』からの落差が激しく、読んでいる最中は少し物足りなさを感じていました……(笑)
はじめての教師として生徒(とその親)に手を焼きつつ、マリラの遠戚の双子、デイビーとドーラを育てるというのが主軸となっています。
ちょっと全体的に古い価値観かつ理想的すぎるため、人によっては違和感を覚える台詞も多めです。
このあたりの違和感が原文によるものなのか、翻訳によるものなのかの判断がつかないため、松本先生の訳であらためて読んでみたいところです。

③アンの愛情 Anne of the Island
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このあたりから邦題だとこんがらがるようになるため、原題のほうで暗記しています(笑)
アンは完全に落ち着いた大人の女性になり、大学へ進学して下宿生活を楽しんでいます。
前作に引き続き、アンは成績も優秀で、(容姿についてはやや悪意のある描写がありますが)美しく魅力的な女性としての描写されています。

このアンの落ち着きによって空いた穴を埋めるように現れる子供っぽいアンの新しい友人が『フィリパ』です。

表向きはアンの物語ですが、この巻は実質フィリパが主人公となっています。
アンはふたりの男性に求婚されて迷い悩む……というのがおそらく主軸なのだとは思いますが、私は現金な人間なので、アンが誰と婚約するかよりもフィリパの精神的成長を楽しんでいました。

ちなみに、アンはかの石板事件で有名なギルバート・ブライスに求婚されるのですが、アンはこれを撥ねてしまいます。
ここで少し気になるのが、アンが休暇中にアヴォンリーへ帰ると村中の人間がそのことを把握していて、なおかつギルバート本人は帰省していないことです。
アンに会いたくないのはともかく、友人にからかわれるのが怖くて帰ってこられなかったとかじゃないといいのですが……

とくにここについて詳しいことは書いてありませんでしたが、もし私がギルバートの立場ならいろいろ辛すぎて一生帰省できない気がするので、もう一度求婚して婚約成立に持ち込んだギルバートのメンタルは強すぎるな、などと的外れなことを思いながら読んでいました。

この村内でプライバシーのない感じはシリーズで共通していて、この巻あたりからどんどんその影響が強く出ていたように感じます。

この村内でお互いを把握している空気は、基本的にはあたたかなものとして描かれていますがのちの『アンの娘リラ』の出来事を思うと、少し薄ら寒いものを感じます。

④アンの友達 Chronicles of Avonlea
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アヴォンリー村周辺の人々を主人公にした短編集です。
アンもちょっとだけ出てきます。
不思議なことに、アンがいないほうが物語としてはすっきりしていて読みやすいです。
新潮文庫ではこれが四巻となっていますが、ちょうど箸休めになってリフレッシュできるので、このタイミングで読むのは結構おすすめです。

⑤アンの幸福 Anne of Windy Willows
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この辺から邦題がどんどんややこしくなるので、もう完全に原題で覚えています(笑)
松本先生の訳では『風柳荘のアン』です。
この巻ではウィンディ・ウィローズを『柳風荘』と表記しており、その語感で覚えていたのですが、なぜか次の巻では『風柳荘』になっていて混乱しました、、、
この巻はシリーズでダントツに面白かったです。『赤毛のアン』に匹敵するほどの面白さでした。
新天地で久しぶりにアンが失敗を繰り返し、敵だらけの中で教師として奮闘しながら新しい友達を得ていくさまは、読んでいるだけでワクワクしました。
アンが『アン・シャーリー』という独立した女性として生きているのは、この巻までです。
ある意味、ここまでがアン・ブックスの前編ともいえるかもしれません。

⑥アンの夢の家 Anne's House of Dreams
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タイトルが原題どおりで覚えやすくて助かりました(そこじゃない)
アンの結婚式と新居での生活がメインとなります。
順風満帆な前半から一変、初産がまさかの結果に終わるシーンは本当に目を疑いました。
順風満帆すぎてつまらないな、と思っていた矢先だったので、どうしていいかわからずに呆然としていたのを覚えています。
このあたりから、もしかしたら最終巻への布石としてこういった描写が入っていたのかもしれません。
この巻からの登場人物であるレスリーは私のお気に入りです。
ほかにも女中のスーザンやミス・コーネリアなど、シリーズ後半を彩る魅力的な人物が多数出てきます。
そして実質、アンが本当に主人公といえるのはこの巻までです。

⑦アンをめぐる人々 Further Chronicles of Avonlea
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こちらもアンがほぼいない短編集です。
ユーモラスな短編が多いので、こっちの短編集のほうが好きだったりします。

⑧ 炉辺荘のアン Anne of Ingleside
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アンと言いつつ、彼女が主人公なのは冒頭の数ページのみで、ほとんど彼女の子供たちが主人公の巻です。
何気にダイアナがきちんと登場する最後の巻でもあります。
ダイアナが娘にアン・コーデリアと名付けたのに対して、アンが双子の娘に「アン」「ダイアナ」と名付けているのは素敵だなあと思った反面、途中で末妹の「リラ」=バーサ・マリラ(生母+育ての母の名前)が誕生した際は、「そんな大事な名前を四人目の女の子までとっておいたの!?」と思ってしまいました、、、
しかし本当に「最初の女の子」にこの名前をつけていたら目も当てられない事態になっていたので、よかったです。
この巻は女中のスーザンが気のいいばあやとしていい味を出しています。

⑨虹の谷のアン Rainbow Valley
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短編集と同じくらいアンは登場しません。
主役はグレンセントメアリー村の牧師館に住むメレディス家の兄弟姉妹たちで、ここから先はメレディス家とブライス家が交流しながら物語が進んでいきます。
途中で現れる孤児のメアリーが無邪気で生意気で、とてもかわいらしいです。
虐待家庭から逃げて行き倒れていたのを助けられる彼女ですが、それほどメレディス家の子供に絆されたり改心したりするわけでもなく、ほどほどに生意気な態度をとりつづける部分にリアルさを感じます。そこがかわいいです。(え)

⑩アンの娘リラ Rilla of Ingleside
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邦題に騙されて、てっきりエピローグ的な優しい話かと思いきや、「ここからが本番」と言わんばかりの凄まじい内容でした。
この巻は間違いなく"Rilla of Ingleside"が正しいタイトルです。
もともとこのシリーズは牧歌的で、なおかつ少し理想的すぎるくらいの物語が多い印象で、正直なところ「起伏が少なくて退屈だ」とすら思い始めていたところだったのですが、その考えを見透かすかのように、第一次世界大戦を主軸とした地獄のようなストーリーが幕をあけます。

まず、時代を特定せず、まるでおとぎ話のようだったアンの世界にいきなり「サラエボ事件」が登場し、突然物語の年月日が特定されてしまいます。

それを皮切りに、あのご近所の噂話しか興味のなかった牧歌的な人物たちが一気に愛国心を見せ、具体的な戦地と戦況を噂し、政治家の具体名を出して詰りはじめます。
あの家事やご近所の話しかしなかった女中のスーザンがヨーロッパの地名と政治家の動向を把握して敵国を罵倒しはじめるさまは恐怖としかいいようがなかったです。

カナダは英国の援軍であるため徴兵には至らなかったようですが、適齢期で入隊しない男子は近所中に悪口を囁かれ、多くの人物がそれから逃れるために嫌々入隊している様子があり、どこの国にも兵役に同調圧力があることが伺えます。
率先して入隊したジェムが帰り、悩みぬいた末に入隊したウォルターが帰らぬ人になるのも、因果を感じます。

そんなネガティブな話題の多いこの巻ですが、リラという少女の成長は本当に鮮やかで、読んでいてぞくぞくするほどでした。

序盤のダンスパーティーのリラの甘えっぷりとわがままぶりには読んでいてムカッとくるほどでしたが、そこから少しずつ、はっきりと成長が見え、一人前の女性になるさまは蕾が少しずつ開花する姿を追っているかのようでした。

アンのときはダイジェストで成長が飛ばされていたために2巻のアンには違和感がありましたが、リラについては「よく頑張ったね」と声をかけてあげたくなりました。


『アンの思い出の日々』はまだ持っていないのと、第一次世界大戦のくだりであまりにも心が疲弊してしまった状態で第二次世界大戦の話題があるらしいこの巻を読むのが怖すぎるので、一旦クールダウンして間をおいてから挑戦しようと思います。

アン・ブックスは巻ごとにかなり方向性が違って起伏に富んでおり、どれも名作と謳われる理由がはっきりとわかる内容ばかりで非常に楽しい時間でした。

本当はこのまま松本先生の訳に行こうと考えていましたが、あまりにも連続で『アン』の世界を浴びすぎて少し疲れてしまったので、別の積読を消化してからあらためて読もうと思います。

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