4 めまぐるしい変化

 それから少し経ったころ、仕事に出かけたイザドラは帰り道に道で倒れてしまいました。
 家にいたレイが連絡をもらって駆けつけたものの、昏睡状態のイザドラの前には、なすすべもありませんでした。レイは、半狂乱でステイシーに電話をかけました。アーノルドにはつながりませんでした。
「わかった。あたしはすぐに帰れないけど、すぐに行く」
 ステイシーは、そう言ってくれました。
 その後レイが静かにイザドラの手を握っていると、病室の扉が突然開き、見たこともない大人たちがたくさん入ってきました。
「ステイシーに聞いたわ。レイチェルってのは、あなたね」
 そこには、目元のしわが目立つ、気の強そうな金髪のおばさんが二人いました。レイはぽかんと口をあけて、かわるがわる二人を見つめました。
「はじめまして。あたしは、そこにいるイザドラの娘、チェルシー。こっちは、妹のトレイシー。あたしたちは、ステイシーの姉よ」
 そう、彼女たちは、イザドラの三人の娘のうちの二人でした。その並々ならぬ迫力に、レイは怯えました。
「はじめまして……すみません、これまでご挨拶をしたこともなくて……」
 こわごわ挨拶すると、チェルシーと名乗ったほうが答えました。
「いーよ。あたしら、親と縁切り同然で嫁いだし。若いのに一人で母さんの面倒みてくれて、ありがとうね」
 トレイシーと呼ばれていたほうも言いました。
「そうそう。で、これからどうしようか。病院に置いておいたらお金がかかるし、かといって、あたしたちには家庭があるし、連れて帰るのはちょっとね」
「え……連れて帰るんですか? いつ?」
 レイは驚愕の面持ちで尋ねました。こんな、寝たきりのイザドラを連れて帰るなんて!
「今日中。医者の話じゃ、特に原因は見つからないんだって。見つからないから、手の施しようもない。じゃあ、ここに置いておく必要はないでしょう? 大丈夫、本当に寝てるだけらしいから。夫に車を持ってきてもらえるように頼んでおくわね」
 なんでもなさそうに、チェルシーは言いました。不気味なほど口角をあげたトレイシーが後を引き継ぎました。
「悪いけど、今日のところは、母さんと家に帰ってくれる? もし、何か異変があったら、連絡してくれればいいからさ」
「それ……本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。ね?」
 有無を言わせない物言いに、レイは頷くしかありませんでした。

 結局、イザドラは家に帰されました。さっさと彼女を寝室のベッドに寝かせると、二人の姉と、チェルシーの夫だという人は、すぐに玄関に向かいました。
「何かあったら電話してくれていいからね」
 レイは、お礼を言って、頭を下げることしかできませんでした。
 車のエンジン音が遠ざかると、レイは寝室に戻り、静かにイザドラの顔を見つめました。レイはイザドラの手をとると、夜が明けるまで、声を押し殺して泣きました。
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