4 めまぐるしい変化

 イザドラは、すぐにアールに手紙を書きました。この手紙を封筒に入れてからイザドラがサインをすると、封筒は粉々になって消えてしまいました。それがどういう仕組みなのかはわかりませんでしたが、ともかく、手紙はアールのもとへ行ったようでした。
「こちらから送るのはかまわないのだけれど、向こうから返信するのは大変なんだよ。あの歩きづらい森を何時間も歩き続けて、外に出ないといけないんだからね。今のよぼよぼのアールじゃあ、そんなことできるかどうか。だから、返信が来るかはわからない」
「森……」
 そう、森の向こうもまた、別の国でした。森の外にお母さんとハルは行ってしまったのです。
 レイはふと、思いました。そして尋ねました。
「その森、どこにあるの? それって、私たちでも行けるの?」
 イザドラは、しまったという顔をしました。
「さあ。どこにあるのだろうね」
「わからないの? アールからの手紙に書いていないの? そうだ、手紙を出して、聞けば教えてもらえるかも」
「ああ、そうかもしれないね。まあ、とにかく今は、わからないよ」
 はぐらかすように早口で言って、イザドラはさっさと部屋を出て行ってしまいました。
 何か隠しているな、とレイは思いました。でも、だからといってイザドラを問いつめる気にはなりませんでした。それよりも、イザドラがハルに敬語を使っていることに気をとられていました。
 ――私は「レイ」で、ハルは「ハロルド様」なのはどうして?

 このころ、ちょうどレイは、ノアと会えなくなっていました。最後に会ったときに、ノアは言いました。
「母さんが、十三歳になったら全寮制の学校に入れだってさ。それに備えて勉強だのなんだのと言って、最近監視が厳しくなっているんだ。だから、しばらく仲間にもお前にも会えない。手紙もはねられるから駄目だ。でも、扉のことだけはなんとかして守るよ」
 ステイシーは、家を出ていきました。
「友達が、セミラで音楽活動しているんだけどさ、そいつにあたし、誘われちゃったんだよね。ママは結婚結婚ってうるさいだけだし、あたし、新しいところで何かはじめてみたいの」
 アーノルドは、新しい仕事を見つけました。
「前ほど給料はよくないが、いい勤め先を見つけたんだ。それもこれも、この好景気のおかげだよ。ただ、職場はかなり遠いから、この家からは離れることになる。イザドラにはお前から伝えてくれ。『これまでのつけも、いつか返す』ってな」

 こうして、レイが学校を卒業して十三歳になったとき、家にはイザドラとレイの二人しかいませんでした。用事がなくなったレイは、仕事で留守にしがちなイザドラに代わって家事をするようになりました。
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