3 昔話

 それ以降、クロックは外部と断絶した状態のままになりました。食糧確保などの生活に関することがらは、すべて国に住む時計たちの仕事になりました。
けれども、完全に外とかかわらなくなった訳ではありませんでした。外の様子を知るために、こっそり森を抜けて外出することもありました。外から人は入ってこれませんが、中にいる人が出て行ったり、戻ってきたりすることはできました。七歳を超えた王子は皆、かつての隣国の学校へ行っていましたし、王様も毎日新聞を読んでいました。彼らは、わりと普通に生活していたのです。
「外でも買い物できるように金を稼ぎながら外の世界の情報を得るのは、わしの仕事でした。懐かしいものだ」
 
 ダグラス王以降、クロックには必ず王子が一人だけ生まれるようになりました。女の子は一度も誕生しませんでしたし、男の子も一人以上は絶対に生まれませんでした。王子は皆、国の外へ勉強しに行ったついでに知り合った女性を連れて帰ってきました。ほとんど人がいないこの国に嫁いでくるのは、必ず身寄りのない女性でした。
「家族が結婚式に来たのは、十七代目の王ナサニエル様の妃、アレクサンドラ様だけでした。わしは、そのとき、何だか嫌な予感がしたのですよ。そして、生まれた子は女の子だった。これで、わしはもう『何かが起こるに違いない』と確信しました」
 アールは急きょ、あの小屋の扉の穴から鍵を作りました。そしてイザドラにそれを預け、一番信頼していた赤いめざまし時計のティムに小屋と国の両方を見張らせました。
「イザドラは先代の王が存命の頃にやってきました。夫の暴力と浮気に耐えかねて家を出てきた女性でした。そのわりに、家族とは連絡をとっていましたが。彼女が一番不思議なんですよ。死のうと思って飛び降りたら、いつのまにかここにいたんだと。話を聞いたら、住まいがペンバートン家の近くだったので、いちかばちか鍵を預けました。もしも何かあったら、小屋のドアから逃げろとね」
レイはくらくらしてきました。それはノアも同じでした。
「歴史の授業みたいだ。勘弁してくれよ、吐きそうだ」
「アール、お父様とお母様はどこにいるの?」
 アールは悲しげに瞼を閉じました。
「お父様には、お会いになれません」
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