3 ふたつの時計

「ちょっと聞きたいことがあるんだ。おまえ、隣町に住んでいるだろう。隣町には森があるよな」
「ええ。確かにあるわよ。危ないと言われているから、行ったことはないけれどね」
 するとギルは、アリーを引っぱっておばさんから遠ざけ、こうささやきました。
「案内してくれよ」
「なんですって?」
 アリーは自分の耳を疑いました。あの森は一度入ると二度と出てこられないという、おぞましい森です。そんな、大人でさえ恐ろしがって近づかない場所に、ギルは行きたがっているのです。
「冗談はもうたくさんよ」
 アリーは帰ろうと思い、ばしっとギルの手を振りはらいました。しかし、ギルは懲りずにもう一度、アリーの腕を掴みました。
「冗談じゃないんだよ、いいから聞いてくれよ」
 ギルがあまりにも必死に訴えるので、アリーは仕方なく、促されるまま、そばにあった椅子に腰掛けました。
「俺が、おまえの話を素直に聞いたのを変だとは思わなかったか?正直、その妙な帽子のことを、俺は信じられない」
「何が言いたいの?」
「俺も、おかしな時計を見つけたのさ」
 ギルは、ポケットから懐中時計を出してみせました。
「昨日、この時計から妖精が出てきたんだ」
 そして、その幼い顔に似つかわしくない、真面目くさった表情で話をしてくれました。この時計から妖精が現れて、隣町の森へ来てくれと言ったというのです。
「それ、本当なのね?」
 アリーは念を押しました。
 実のところ、アリーはたいしてよく知りもしないギルの話を鵜呑みにはできませんでした。
 けれども、アリーの帽子の件と合わせると、どうにもギルの話は無視できないのです。
 ふたりは形こそ違えど、たしかに「時計」という同じものに振りまわされていたのです。
「当然だろ。わざわざおまえなんかに嘘をついたりするもんか。それもこんなばからしい嘘」
 ギルは真剣でした。演技ではなさそうです。
 アリーは、ギルの話に乗ってみることにしました。今、アリーの中ではギルへの疑念より、帽子への好奇心がまさっていました。
「だけど、ママたちにばれたら、ただじゃすまないわよ」
「いいさ、俺はいつもただじゃない目にあってるからな」
「いつにする?」
「次の日曜日にしよう。お祈りのあと、おまえのうちへいく。これでどうだ?」
「いいわ」
 ふたりはお互いの目を見て同時に頷きました。
「ところで、ギル。私のことは『アリー』と呼んでよね?『アレックス』なんて言ったら案内しないから」
 ギルは、豆鉄砲をくらった鳩のような顔でこちらを見たあと、「わかったよアリー」と小さく呟きました。
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