2 懐かしい故郷

 ――あのお屋敷は、前にイザドラと一緒に行った事があるわ。周りの景色がそっくりだったもの。もし、そうだとしたら、あのお屋敷の屋根裏には、故郷へ繋がる扉があるはず。そうしたら、お父様たちにも会えるかもしれない。

 レイは、家族に会いたくてたまりませんでした。どれだけ長い時間に隔てられようとも、本当の家族への思いは変わりませんでした。

 ――「ノア」なら、屋根裏へも行けるのかしら。扉のことは知っているのかしら。彼に聞けば、故郷のこともわかるのかしら……

 何日も考えた末に、レイは思い切った行動に出ました。
 学校の後、家には帰らずに鞄を背負ったまま、町の噴水広場を目指しました。アーノルドの話が本当かどうか、確かめてみることにしたのです。
 広場には、すでに十人程の子供たちが集まっていました。何人かは、レイのことをじろじろと見てきました。そして、ひそひそ声で話をし始めました。
「なんだ、あいつ。初めて見るな」
「俺は知ってるぞ。レイチェル・ワトソンだ。学校で見かけたことがあるよ」
「名前だけなら知っているわ。でも、顔は覚えていない」
 それらの話し声は、全てレイの耳に届いていました。レイは、ここへやってきたことを後悔しました。そこへ、
「お前、誰だよ。初めて見る顔だなあ。名前は?」
 周りを押しのけて、誰かがこちらに近づいてきました。
 彼は、透き通るような淡い金髪に、澄んだ青い目をしていました。一人だけフォーマル服で、きちんとした身なりでした。でも、言葉遣いはあまりよくありませんでした。
 彼がレイに話しかけたことで、周囲の視線はいっせいにレイに向けられました。それはレイを萎縮させましたし、何より、突然話しかけられても、答えることはできません。レイはただただ、戸惑いました。それを見て相手は、自分が警戒されていると勘違いしたようでした。
「別にからかっているんじゃないぜ。それとも、俺が名乗ればいいのか? いいだろ、俺はノア。『ノア・ペンバートン』だ」
 レイはびっくりして、相手をまじまじと、穴があくほど観察しました。確かに、そう言われても納得できる容姿をしていました。
 彼が、ノアなのです。アーノルドが言っていた、あの屋敷に住んでいる少年なのです。レイは、勇気を振り絞って答えました。
「レイチェル・ワトソン、よ」
「へえ、初めて聞くなあ。まあいいや。お前も、仲間に入りたくて来たのか?」
「いいえ、そういうわけじゃ……」
 レイが否定しようとした瞬間、周囲の子供は騒ぎ出しました。
「ノア! そいつを仲間にする気かよ?」
「反対だね。そいつが俺たちの役に立つとは思えない」
 襲いかかるたくさんの厳しい言葉に、レイは逃げ出したくなりました。
 しかし、ノアは言いました。
「いいじゃないか。仲間は、いればいるほどいい。歓迎しよう。ただし、仲間になるからには、裏切りは許されないぞ」
「ノア、正気かよ?」
「ノアが言うなら仕方ないな」
 レイが一言も話さないうちに、ノアと周辺の子供たちは話をまとめてしまいました。結局、レイは状況をよく呑み込めてないままに、彼らの仲間に認定されてしまったようでした。
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