2 ギルと懐中時計
「幽霊じゃないよ。精霊。それに、この時計は私の故郷、『クロック王国』の王子様の時計。だからあなたが王子様なの」
そんなことを言われても、この時計は元々ギルのではありません。お父さんが買ってきて、それをハルがくれたのです。
「これは俺のじゃなくて、兄さんのだよ。でも、父さんや兄さんが王子様だなんてこと、あるもんか」
ギルがこう言い返しますと、少女フローは困ったような顔で黙ってしまいました。
しばらく沈黙が続いたのち、フローは言いました。
「だったら、王子様じゃなくてもいい。あなた、名前は」
「ギルバート。ギルって呼ばれてる」
「じゃあ、ギルバート、あなたにお願いするよ。人食い森に来て。私と王様を助けて欲しい。」
「人喰い森って、隣町の森かい。だめだよ、あそこは危険だから行くなって、学校の先生が言っていたんだ」
これは本当です。隣町のはずれにある深い森はとても大きく、入ったが最後、帰ってこなくなる人が後を絶ちませんでした。ですから、大人たちは皆その森を「人喰い森」と呼んで恐れていました。学校の先生も、ことあるごとに「森に近づくな」とギルたちに注意するのでした。
しかし、フローは引き下がりませんでした。
「そんなこと言われたって、困るよ。頼めるのはあなただけなのに」
「だって俺、森から迷わずに帰ってくる自身がないよ。他に頼める人はいないの?」
それを聞くと、フローは暫く考えこみました。
「わかった、あなたを助けてくれそうな人のところへ、あなたを導いてあげる」
「どんな人?」
「我がクロック王国に代々受け継がれてきた聖なる時計は三つあるの。それを持っている人。きっと協力してくれるよ」
話しているうちに、もともと薄かったフローの身体は、さらに薄く透き通り、だんだん見えなくなっていきました。
「ごめんなさい、そろそろお城に戻されてしまうみたい。じゃあ、時計のぜんまいをちゃんと巻いてね。待っているから」
早口でしゃべり終えると、フローは念を押すように、にこりと笑ってみせました。そして音もなくすうっと消えてしまいました。
フローがいなくなると、部屋は真っ暗になってしまいました。ギルは立ち尽くしたまま、しばらく動けませんでした。
その後、どのようにして眠りについたのかは定かではありませんが、朝、目がさめると、ギルはベッドの中にいました。床に転がされた懐中時計はそのままでした。
そんなことを言われても、この時計は元々ギルのではありません。お父さんが買ってきて、それをハルがくれたのです。
「これは俺のじゃなくて、兄さんのだよ。でも、父さんや兄さんが王子様だなんてこと、あるもんか」
ギルがこう言い返しますと、少女フローは困ったような顔で黙ってしまいました。
しばらく沈黙が続いたのち、フローは言いました。
「だったら、王子様じゃなくてもいい。あなた、名前は」
「ギルバート。ギルって呼ばれてる」
「じゃあ、ギルバート、あなたにお願いするよ。人食い森に来て。私と王様を助けて欲しい。」
「人喰い森って、隣町の森かい。だめだよ、あそこは危険だから行くなって、学校の先生が言っていたんだ」
これは本当です。隣町のはずれにある深い森はとても大きく、入ったが最後、帰ってこなくなる人が後を絶ちませんでした。ですから、大人たちは皆その森を「人喰い森」と呼んで恐れていました。学校の先生も、ことあるごとに「森に近づくな」とギルたちに注意するのでした。
しかし、フローは引き下がりませんでした。
「そんなこと言われたって、困るよ。頼めるのはあなただけなのに」
「だって俺、森から迷わずに帰ってくる自身がないよ。他に頼める人はいないの?」
それを聞くと、フローは暫く考えこみました。
「わかった、あなたを助けてくれそうな人のところへ、あなたを導いてあげる」
「どんな人?」
「我がクロック王国に代々受け継がれてきた聖なる時計は三つあるの。それを持っている人。きっと協力してくれるよ」
話しているうちに、もともと薄かったフローの身体は、さらに薄く透き通り、だんだん見えなくなっていきました。
「ごめんなさい、そろそろお城に戻されてしまうみたい。じゃあ、時計のぜんまいをちゃんと巻いてね。待っているから」
早口でしゃべり終えると、フローは念を押すように、にこりと笑ってみせました。そして音もなくすうっと消えてしまいました。
フローがいなくなると、部屋は真っ暗になってしまいました。ギルは立ち尽くしたまま、しばらく動けませんでした。
その後、どのようにして眠りについたのかは定かではありませんが、朝、目がさめると、ギルはベッドの中にいました。床に転がされた懐中時計はそのままでした。