1 アリーと赤帽子
「ペ・ン・バー……トン。『ペンバートン』って、何かしら」
全く見当がつかなかったので、アリーは両親のいる家に帰り、店じまいを終えたパパに質問しました。今日は金曜日なので、おばさんの家に帰らなくてもよいのです。
「ねえパパ、『ペンバートン』って何か知ってる?」
「何だ、急に。ペンバートンといったら、あれだ、会社の名前だよ。一流の大企業だ。それがどうかしたのか」
「ええと、今日お店で見た時計に、そう書いてあったの」
「そうかい。じゃあ、ペンバートン社製の時計なのだろう。しかしあの会社、時計なんか作っていたかなあ?」
パパは首を捻っていましたが、とりあえず、アリーは納得しました。
ですが、それと同時にがっかりしました。この言葉が、バートの素性を知る手がかりになればいいなと思っていたからです。もっと彼を問い詰めて色々なことを聞いておけばよかった、とアリーは後悔しました。
さて、残るはこの人騒がせな帽子です。
家でもう一度帽子の裏側を見てみると、不思議なことに、裏地に縫いこまれている二本の線の位置は、昼間と変わっていました。それはちょうど夜の六時半を指していて、その針の場所はリビングの壁掛け時計とまったく同じでした。どうやら、この帽子の時計は、実際の時間に合わせて動いているらしいのです。
そこで数日後、アリーはまたお店に行きました。レイは、ちょうど仕上がった服を持ってどこかへ行こうとしているところでした。アリーは帽子を被ったまま、レイにの前に立ちはだかりました。
「見て、この帽子似合っているでしょう? でも、変なの。なぜか私の名前が刺繍してあるし、裏側が時計になっているの。ねえ、信じられる? 布でできた針が帽子の中で動くのよ」
アリーは思わず、早口で一気にまくし立ててしまいました。言いたいことがありすぎて、どこから説明すればいいのかわかりませんでした。しかし、レイはそんなアリーにふっと微笑みかけると、その言葉を遮るように言いました。
「きっと気のせいよ、アリー。寝る前におとぎ話を読みすぎたのではないの? 王子様とお姫様がでてくるような話をね」
「え?」
それはまるで、言うことを聞かない子供を諭すような言い方でした。それでいて、どことなくアリーを馬鹿にするかのような口調でした。
アリーが何も話せないまま突っ立っていると、レイは、話すことはもうない、とでも言うように、アリーの横をすり抜けて、さっさと行ってしまいました。
全く見当がつかなかったので、アリーは両親のいる家に帰り、店じまいを終えたパパに質問しました。今日は金曜日なので、おばさんの家に帰らなくてもよいのです。
「ねえパパ、『ペンバートン』って何か知ってる?」
「何だ、急に。ペンバートンといったら、あれだ、会社の名前だよ。一流の大企業だ。それがどうかしたのか」
「ええと、今日お店で見た時計に、そう書いてあったの」
「そうかい。じゃあ、ペンバートン社製の時計なのだろう。しかしあの会社、時計なんか作っていたかなあ?」
パパは首を捻っていましたが、とりあえず、アリーは納得しました。
ですが、それと同時にがっかりしました。この言葉が、バートの素性を知る手がかりになればいいなと思っていたからです。もっと彼を問い詰めて色々なことを聞いておけばよかった、とアリーは後悔しました。
さて、残るはこの人騒がせな帽子です。
家でもう一度帽子の裏側を見てみると、不思議なことに、裏地に縫いこまれている二本の線の位置は、昼間と変わっていました。それはちょうど夜の六時半を指していて、その針の場所はリビングの壁掛け時計とまったく同じでした。どうやら、この帽子の時計は、実際の時間に合わせて動いているらしいのです。
そこで数日後、アリーはまたお店に行きました。レイは、ちょうど仕上がった服を持ってどこかへ行こうとしているところでした。アリーは帽子を被ったまま、レイにの前に立ちはだかりました。
「見て、この帽子似合っているでしょう? でも、変なの。なぜか私の名前が刺繍してあるし、裏側が時計になっているの。ねえ、信じられる? 布でできた針が帽子の中で動くのよ」
アリーは思わず、早口で一気にまくし立ててしまいました。言いたいことがありすぎて、どこから説明すればいいのかわかりませんでした。しかし、レイはそんなアリーにふっと微笑みかけると、その言葉を遮るように言いました。
「きっと気のせいよ、アリー。寝る前におとぎ話を読みすぎたのではないの? 王子様とお姫様がでてくるような話をね」
「え?」
それはまるで、言うことを聞かない子供を諭すような言い方でした。それでいて、どことなくアリーを馬鹿にするかのような口調でした。
アリーが何も話せないまま突っ立っていると、レイは、話すことはもうない、とでも言うように、アリーの横をすり抜けて、さっさと行ってしまいました。