6 プリンセス
「アリーの?」
ハルが意外そうにこちらを見たので、アリーは急いで帽子を脱ぎました。
「これ……レイに貰ったの。ギルのママも、レイがいらないというのなら構わないって言うから……」
ハルはアリーの帽子を手に取り、不思議そうに眺めました。
「この帽子は知っています。アレクサンドラ……実母がいつも身につけていましたから。でも、これが、この国に関係しているんですか?」
「ああ。これについては俺も、長い間誤解していた。ずっと、この帽子は王妃の証だと思っていたんだ」
「王妃?」
アリーが聞き返すと、バートは頷きました。
「国王の妻のことさ。これまで、その帽子は外部から嫁いできた王妃に与えられていたんだ。そして王太子が次期国王として即位する際、この帽子もかつての王妃から次の王妃へと受け継がれていたんだ」
アリーは首を捻りながら、その難解な説明を飲みこみました。
「ええと、なんだか難しいけど……つまりこれは、歴代の王妃様の持ち物だったってこと?」
「ああ。少なくとも俺は、そう誤解していた」
その説明に、アリーはまたわけがわからなくなりました。
「じゃあ違うの?」
「そうだ。違ったんだ。ほら、アリーが見つけたこのページ、ここを見てくれ」
バートは持っていた本をこちらに向けて見せてくれました。難しい単語についてはバートがひとつずつ解説をしてくれました。
アリーが開いていたページは、ちょうど赤帽子について記載されている部分だったようで、そこには、こう書いてありました。
──この王冠は、元は将来生まれる王女、もしくは将来の女王に捧げる物としてつくられた。しかし長年、王家に王女が誕生しなかったことから、この王冠の持ち主の条件は「王女」から「王家の女性」に緩められ、王女が存在しない間、例外的に王妃へと与えられた。のちにシーザー四世の妻が、重く不便な王冠を嫌ったことから、王冠の魔力と紋章は布製の帽子に移され、便宜上これを王冠として儀式に用いるようになった。この帽子は、王冠と同じ効力を持ち、持ち主が正式に王族と認められた者であることを保証する。また、国内に王女が誕生した場合、王妃は、王女の7歳の誕生祭にて帽子を王女に受け継ぐ義務を負う。
「わかるかい。つまり、この帽子は……」
「王女様の王冠ってことね?」
「そうだ。そして、もう一つ。ここを読んでくれ」
バートは隣のページの下の方を指さしました。
──国王の証と王女の証は、いずれも必ず正当な持ち主が所持していなければならない。万一、現在の持ち主が死去、勘当、または時間を操作されるなどして、その地位にとどまる権利を失った場合は、すみやかにその位とそれに準ずる証を次の者に受け継ぐ必要がある。これを怠った場合、本来の持ち主、特に長子が持つ魔力が制御できず、分裂現象等のトラブルを起こした際、国家の破滅を招く可能性がある。なお、第二王子および王女についてはこの限りではない。
「第二王子および王女は……ということは、長男長女以外は大丈夫ということですか?」
「ああ。ざっくり言うと、王族の魔力は生まれた順に強い傾向にあるんだ。つまり、弟より兄の力のほうが強力なのさ。だから、いたずらに力を暴走させないように、長男を国王にして、長男にだけ国王の証を受け継ぐんだ。だが、まさか同じ法則が王女にも適用されるとは知らなかった」
そして、少し笑ってこう付け足しました。
「ちなみに、いくら長男でも、勘当されて王族で無くなると、力は急激に弱くなっちまう。この国はよそと違って、少し気味の悪いことが多いんだ」
それから、いつものバートらしく、リラックスした表情で、どさっとベッドに腰掛けました。
「よかった、光が見えてきたぞ。これから彼女に、レイチェルにこの帽子を渡そう。そうすれば、きっと時の暴走は収まるはずだ」
「でも、どうするの? レイは帽子のことを嫌っているみたいだったわ」
「ああ。王妃の……いや、王女の証ってのは、国王の証と違って本人の意思がないと持ち主を変えることができないんだ。でもまあ、説得すればなんとかなるだろう」
バートはニッと勝気な笑みを浮かべ、ベッドから立ちあがりました。
「決まりだ。森の外は危険だが、俺の時計があれば、ギリギリ元の場所にたどり着けるかもしれない」
ハルはそれを聞いて安堵の表情を浮かべました。アリーもほっとしました。この調子なら、無事に解決できそうです。
ところが、そのとき、突然地下室の扉が、バン! と勢いよく開きました。一同は一斉に扉の方を振り返り、そして、絶句しました。
「おい、嘘だろ。あれは、まさか……!」
「レイ?!」
そこにいたのは、瓦礫の中で見失ったはずの、レイでした。
ハルが意外そうにこちらを見たので、アリーは急いで帽子を脱ぎました。
「これ……レイに貰ったの。ギルのママも、レイがいらないというのなら構わないって言うから……」
ハルはアリーの帽子を手に取り、不思議そうに眺めました。
「この帽子は知っています。アレクサンドラ……実母がいつも身につけていましたから。でも、これが、この国に関係しているんですか?」
「ああ。これについては俺も、長い間誤解していた。ずっと、この帽子は王妃の証だと思っていたんだ」
「王妃?」
アリーが聞き返すと、バートは頷きました。
「国王の妻のことさ。これまで、その帽子は外部から嫁いできた王妃に与えられていたんだ。そして王太子が次期国王として即位する際、この帽子もかつての王妃から次の王妃へと受け継がれていたんだ」
アリーは首を捻りながら、その難解な説明を飲みこみました。
「ええと、なんだか難しいけど……つまりこれは、歴代の王妃様の持ち物だったってこと?」
「ああ。少なくとも俺は、そう誤解していた」
その説明に、アリーはまたわけがわからなくなりました。
「じゃあ違うの?」
「そうだ。違ったんだ。ほら、アリーが見つけたこのページ、ここを見てくれ」
バートは持っていた本をこちらに向けて見せてくれました。難しい単語についてはバートがひとつずつ解説をしてくれました。
アリーが開いていたページは、ちょうど赤帽子について記載されている部分だったようで、そこには、こう書いてありました。
──この王冠は、元は将来生まれる王女、もしくは将来の女王に捧げる物としてつくられた。しかし長年、王家に王女が誕生しなかったことから、この王冠の持ち主の条件は「王女」から「王家の女性」に緩められ、王女が存在しない間、例外的に王妃へと与えられた。のちにシーザー四世の妻が、重く不便な王冠を嫌ったことから、王冠の魔力と紋章は布製の帽子に移され、便宜上これを王冠として儀式に用いるようになった。この帽子は、王冠と同じ効力を持ち、持ち主が正式に王族と認められた者であることを保証する。また、国内に王女が誕生した場合、王妃は、王女の7歳の誕生祭にて帽子を王女に受け継ぐ義務を負う。
「わかるかい。つまり、この帽子は……」
「王女様の王冠ってことね?」
「そうだ。そして、もう一つ。ここを読んでくれ」
バートは隣のページの下の方を指さしました。
──国王の証と王女の証は、いずれも必ず正当な持ち主が所持していなければならない。万一、現在の持ち主が死去、勘当、または時間を操作されるなどして、その地位にとどまる権利を失った場合は、すみやかにその位とそれに準ずる証を次の者に受け継ぐ必要がある。これを怠った場合、本来の持ち主、特に長子が持つ魔力が制御できず、分裂現象等のトラブルを起こした際、国家の破滅を招く可能性がある。なお、第二王子および王女についてはこの限りではない。
「第二王子および王女は……ということは、長男長女以外は大丈夫ということですか?」
「ああ。ざっくり言うと、王族の魔力は生まれた順に強い傾向にあるんだ。つまり、弟より兄の力のほうが強力なのさ。だから、いたずらに力を暴走させないように、長男を国王にして、長男にだけ国王の証を受け継ぐんだ。だが、まさか同じ法則が王女にも適用されるとは知らなかった」
そして、少し笑ってこう付け足しました。
「ちなみに、いくら長男でも、勘当されて王族で無くなると、力は急激に弱くなっちまう。この国はよそと違って、少し気味の悪いことが多いんだ」
それから、いつものバートらしく、リラックスした表情で、どさっとベッドに腰掛けました。
「よかった、光が見えてきたぞ。これから彼女に、レイチェルにこの帽子を渡そう。そうすれば、きっと時の暴走は収まるはずだ」
「でも、どうするの? レイは帽子のことを嫌っているみたいだったわ」
「ああ。王妃の……いや、王女の証ってのは、国王の証と違って本人の意思がないと持ち主を変えることができないんだ。でもまあ、説得すればなんとかなるだろう」
バートはニッと勝気な笑みを浮かべ、ベッドから立ちあがりました。
「決まりだ。森の外は危険だが、俺の時計があれば、ギリギリ元の場所にたどり着けるかもしれない」
ハルはそれを聞いて安堵の表情を浮かべました。アリーもほっとしました。この調子なら、無事に解決できそうです。
ところが、そのとき、突然地下室の扉が、バン! と勢いよく開きました。一同は一斉に扉の方を振り返り、そして、絶句しました。
「おい、嘘だろ。あれは、まさか……!」
「レイ?!」
そこにいたのは、瓦礫の中で見失ったはずの、レイでした。