1 アリーと赤帽子

 レイにお礼を行った後、二階の自室に戻ったアリーは鏡の前で帽子を被ってみました。帽子を裏返すと、まるくローマ数字が並んでおり、そして帽子の中心からは、まるで長身と単身のように黒い矢印が縫い付けてありました。随分と変わったデザインだ、とアリーは思いました。
 この目の覚めるようなワインレッドのベレー帽は、アリーのこげ茶色の髪と、くりくりした翡翠の目によく似合いました。
しかし、アリーは鏡の前でぐるりと一回転してみて、今着ている、よれよれのワンピースが帽子に合わないことに気づきました。そこでクローゼットをあけ、去年プレゼントしてもらった、お気に入りの赤いスカートと、フリルのついたブラウスを引っ張り出しました。それから髪を梳き、顔を洗ってから、それらを着て帽子を被りなおし、もう一度鏡の前に立ちました。
すると、見たこともないような、お人形のようにかわいらしい女の子が鏡の中に現れました。アリーは嬉しくなって、鏡の前で飛んだり跳ねたり回ったりしました。そのうちに、このかわいらしい恰好で外に出てみようとおもいました。そこで、履き古したぼろぼろの靴を脱ぎ、買ってもらったばかりの編み上げ靴を履いて、裏口から外へ出ました。

その日は、とてもよいお天気でした。休日なので、町の中心にあるこの商店街は、たくさんの人々でにぎわっていました。あたりのお店には、おいしそうなパンや色とりどりの宝石や、見たことのない面白いおもちゃなんかが並んでいましたが、アリーはそれらに目もくれませんでした。店から出るたびに毎回毎回同じものを見て、すっかり飽きてしまっていたからです。
しかし、一つだけ、アリーが見たことのないお店がありました。
それは、お店とお店の間の奥まったところに、ぼろぼろの木でできた足の高いテーブルを置いただけの、みすぼらしい屋台でした。普通なら気味悪がって逃げてしまうところですが、好奇心旺盛なアリーはかまわず近づいていきました。
「ねえ、おじさん。ここで何をしているの?」
 声をかけられて、テーブルに突っ伏していた男は、ゆっくりと顔を上げました。
「おじさん、か。俺はそんなに老けて見えるのかね」
 男は彫りが深く、土気色の汚い顔で、いかにも寝起きという感じの、機嫌の悪そうな面構えでした。けれども、アリーは気にしませんでした。
「少なくとも、お兄さんには見えないわ。ねえ、何を売っているの?」
「見りゃわかるだろう、時計だよ」
 テーブルには一風変わった時計を置いていました。懐中時計の面に革ベルトがついているものや、三角形のものや、数字の代わりに奇妙な絵が描いてあるものや……とにかく、まともではない時計ばかりでした。アリーは目を輝かせて尋ねました。
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