6 再会の兆し
「シンシア? 誰か来ているの?」
後ろから懐かしい声が聞こえました。レイの心臓は跳ね上がりました。先にシンシアが戸口へ行きました。
「姉さん。レイチェルを覚えている? あなたが昔話していた子よ」
レイは後ろを振り返ることもできないまま、戸口に背を向けた状態でその会話を聞きました。た状態でその会話を聞きました。
やがて、ぱたぱたという足音が聞こえたかと思うと、レイの前に、赤いベレー帽をかぶり、エプロンをつけた女性が現れました。
顔こそ少し老けているものの、それは、レイが夢にみるほどよく覚えていた母の顔と同じでした。被っていた帽子にも見覚えがありました。彼女は目をまるくしてレイと、彼女を追って近づいてきたシンシアを交互に見ました。
「あなたは、誰かしら」
「姉さん、あなた昔、言っていたわよね。レイチェルという娘がいるって……この子よ。間違いなくこの娘 があなたの」
「あら私、そんなこと言ったかしら?」
女性はシンシアの話を遮って、レイに話しかけました。
「こんにちは。初めまして。私に何かご用かしら」
レイは、困り果ててしまいました。人生でこんなに困ったことはありませんでした。ここまで来て、人違いだったなんて言われたらたまったものではありません。とりあえず、こう答えました。
「違うんです、その、私は今母を探しているのですが、あなたと母が似ているという話を聞いたので、ちょっとお邪魔しただけなんです」
「そう! そうだったの。でも、私に娘はいないのよ」
「えっ!」
「なんですって?」
レイとシンシアは同時に叫びました。
「忘れたとは言わせないわよ、姉さん。昔私たちに散々言っていたじゃない。娘と夫が心配だって……」
「知らないわ」
不思議そうに首を傾げて、女性は答えました。レイは、自信をなくしつつも、女性に言いました。
「私の母の結婚前の本名は、アレクサンドラ· ヘンリエッタ·スタントン·ブラウンといいます。故郷に残っていましたから間違いありません」
「まあ、びっくり。私の名前だわ!」
彼女はサンディと呼ばれていて」
「それも同じ!」
心から、驚いている様子のサンディに、レイはハロルドの話もしました。サンディはハロルドを実子だと言い、レイはこの人物こそが母だと確信しました。
「私は、あなたが私の母ではないかと思うんです。本当に心当たりはありませんか?」
サンディは首をひねりました。
「でも、娘なんていないのよ」
「それでは、私の父のことは? あなたの結婚相手……ハルの父親の……」
ここまで言えば、話が通じるだろう。レイはそう思っていました。しかし、返ってきたのは衝撃的な答えでした。
「ああ、それはいろんな人に聞かれるの。でも私、夫のことはさっぱり覚えていないのよね」
「は?」
「姉さん!?」
レイは、これほど理解できない言葉を聞いたのは初めましてでした。この世のどこに、夫を覚えていない妻がいるでしょうか。
心底呆れ果てたレイと、サンディの間にシンシアが割って入りました。
「何を言っているの、あなたの結婚式には私もいたわ。あの王子……かどうかはよく知らないけれど、ちょっと変わった旦那さん、まさか本当に覚えていないの?」
「覚えていないわ。私、熱が引いてからハルに再会したときよりも前の事が、あまりよくわからないの」
「そんな話、今聞いたわ!」
「今、言ったのだもの」
わめきたてるシンシアと、サンディの会話を聞いて、レイはなんとなく事の次第がわかりました。
「もう、いいです」
レイはすっと立ち上がりました。
「レイチェル、違うのよ。私は覚えているわ、確かに……」
「覚えていなければ、会う意味もありません。今日はせっかくのお祝いの夜ですし、そろそろ失礼します」
シンシアが呼び止めるのも聞かずに、レイは外へと飛び出し、そのまま駅へ向かって走り出しました。
アールもティムもイザドラもお父さんもフローも、クロックを知る人は皆いなくなっていました。
そして、お母さんとハルは、クロックのことを覚えていませんでした。
レイと故郷で過ごした日々を知っている人は、もうどこにもいませんでした。
「おおい待て、送ってやるよ。ジェームズの家なら知っている」
後ろから、アーロンが追いかけてきました。レイは、できることならこのまま彼からも遠ざかりたかったのですが、社長が心配していたという話を聞いて、しかたなく彼に従いました。
後ろから懐かしい声が聞こえました。レイの心臓は跳ね上がりました。先にシンシアが戸口へ行きました。
「姉さん。レイチェルを覚えている? あなたが昔話していた子よ」
レイは後ろを振り返ることもできないまま、戸口に背を向けた状態でその会話を聞きました。た状態でその会話を聞きました。
やがて、ぱたぱたという足音が聞こえたかと思うと、レイの前に、赤いベレー帽をかぶり、エプロンをつけた女性が現れました。
顔こそ少し老けているものの、それは、レイが夢にみるほどよく覚えていた母の顔と同じでした。被っていた帽子にも見覚えがありました。彼女は目をまるくしてレイと、彼女を追って近づいてきたシンシアを交互に見ました。
「あなたは、誰かしら」
「姉さん、あなた昔、言っていたわよね。レイチェルという娘がいるって……この子よ。間違いなくこの
「あら私、そんなこと言ったかしら?」
女性はシンシアの話を遮って、レイに話しかけました。
「こんにちは。初めまして。私に何かご用かしら」
レイは、困り果ててしまいました。人生でこんなに困ったことはありませんでした。ここまで来て、人違いだったなんて言われたらたまったものではありません。とりあえず、こう答えました。
「違うんです、その、私は今母を探しているのですが、あなたと母が似ているという話を聞いたので、ちょっとお邪魔しただけなんです」
「そう! そうだったの。でも、私に娘はいないのよ」
「えっ!」
「なんですって?」
レイとシンシアは同時に叫びました。
「忘れたとは言わせないわよ、姉さん。昔私たちに散々言っていたじゃない。娘と夫が心配だって……」
「知らないわ」
不思議そうに首を傾げて、女性は答えました。レイは、自信をなくしつつも、女性に言いました。
「私の母の結婚前の本名は、アレクサンドラ· ヘンリエッタ·スタントン·ブラウンといいます。故郷に残っていましたから間違いありません」
「まあ、びっくり。私の名前だわ!」
彼女はサンディと呼ばれていて」
「それも同じ!」
心から、驚いている様子のサンディに、レイはハロルドの話もしました。サンディはハロルドを実子だと言い、レイはこの人物こそが母だと確信しました。
「私は、あなたが私の母ではないかと思うんです。本当に心当たりはありませんか?」
サンディは首をひねりました。
「でも、娘なんていないのよ」
「それでは、私の父のことは? あなたの結婚相手……ハルの父親の……」
ここまで言えば、話が通じるだろう。レイはそう思っていました。しかし、返ってきたのは衝撃的な答えでした。
「ああ、それはいろんな人に聞かれるの。でも私、夫のことはさっぱり覚えていないのよね」
「は?」
「姉さん!?」
レイは、これほど理解できない言葉を聞いたのは初めましてでした。この世のどこに、夫を覚えていない妻がいるでしょうか。
心底呆れ果てたレイと、サンディの間にシンシアが割って入りました。
「何を言っているの、あなたの結婚式には私もいたわ。あの王子……かどうかはよく知らないけれど、ちょっと変わった旦那さん、まさか本当に覚えていないの?」
「覚えていないわ。私、熱が引いてからハルに再会したときよりも前の事が、あまりよくわからないの」
「そんな話、今聞いたわ!」
「今、言ったのだもの」
わめきたてるシンシアと、サンディの会話を聞いて、レイはなんとなく事の次第がわかりました。
「もう、いいです」
レイはすっと立ち上がりました。
「レイチェル、違うのよ。私は覚えているわ、確かに……」
「覚えていなければ、会う意味もありません。今日はせっかくのお祝いの夜ですし、そろそろ失礼します」
シンシアが呼び止めるのも聞かずに、レイは外へと飛び出し、そのまま駅へ向かって走り出しました。
アールもティムもイザドラもお父さんもフローも、クロックを知る人は皆いなくなっていました。
そして、お母さんとハルは、クロックのことを覚えていませんでした。
レイと故郷で過ごした日々を知っている人は、もうどこにもいませんでした。
「おおい待て、送ってやるよ。ジェームズの家なら知っている」
後ろから、アーロンが追いかけてきました。レイは、できることならこのまま彼からも遠ざかりたかったのですが、社長が心配していたという話を聞いて、しかたなく彼に従いました。