5 絶望

 そこには、アール独特の堅苦しい字で、国家設立から現在に至るまでのクロックの歴史が記されていました。レイや両親のことも、昔ノアと一緒に聞かされた事件の話も、何もかもがびっしりと書かれていました。レイは、床に座り込んだまま、夢中になって読みふけりました。そして、いよいよ最後の便箋にたどり着きました。おかしなことに、この便箋の字だけ、弱弱しい、ミミズがはった跡のような字でした。

 ――王子が来るのを楽しみに待っていた私は愚かであった。よりにもよってこんな時に、私にかけられた呪いは解かれようとしている。つまりそれは、私の死を表す。永遠に生きながらえる苦しみに耐えていた私だが、今は死が恐ろしくて仕方ない。なぜならば、私の死後、国を守りうる人間が、ここにはもう一人もいないからだ。ハロルド王子よ、もしもあなたがこの手紙を読んだなら、どうか王の呪いを解いてほしい。そして、何もわからぬままに故郷と引き離された哀れな姫君のことも、救ってやってほしい。私の亡き後にはティムが私を庭

 手紙に書かれているミミズ文字はここまででした。最後の文字は、力尽きたのか、勢いよく便箋のそとへはみ出していました。
 レイは、左わきに動かなくなったティム、右わきに箱を抱えて庭へ出ました。庭といっても、そこはただの野原でした。塔の裏側へ回ると、そこに、不自然に土を掘り返した跡がありました。側には手のひらサイズの小さなシャベルが転がしてありました。それは、この小さな目覚まし時計用のものでした。
 レイはその土の跡を見つめながら、呆然と立ちつくしていました。
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