3 昔話
シーザーの一件があってから、変わったのは王様の名前だけではありませんでした。ちょうどダグラスが王様になったころ、世界は大きく揺らぎはじめました。他の国の技術が発展し、科学というものが力を持ちはじめました。また、王様を持たない国が現れました。そうした中で、今まで不思議だった様々なことが具体的にわかるようになると、人々は、クロックに疑惑の目を向けはじめました。
「あの国は、何かがおかしい」
「怪しい邪教を信仰しているに違いない」
「何かうまいことやって、我々を騙しているんだ」
そんな声が、あちらこちらから聞こえてきました。
クロックに住む人々まで王様を疑いはじめました。根も葉もない噂が国中を駆け巡りました。そして、とうとう、武器を持った他の国と組んで、王様を殺しにかかりました。
しかし、ダグラスとその家族には、時を止める力がありました。王様は、国中の時間を止めることで、危機一髪、助かりました。
ところが、この「生きている人間の時間を止める」というのは、禁忌の術、やってはいけないことでした。もし、これを実行した場合、実行した人の時間が止められ、永遠に眠ったまま朽ち果ててしまうのです。
それを哀れに思った人がいました。それが、アールでした。彼は城、今の時計塔の地下にいて、無事だったのです。
「わしは、つくづく人間の愚かさを思い知りました。ダグラス王は、決して私利私欲のために時間を止めたことなんてありませんでした。王は洪水を止めたり、雲を止めて畑に日光をあてたりしていたのです。すべては国のため、民のためだと仰っていました。そんな恩も忘れて、いったい何をしているのやら! ですからわしは叫びました。こんな理不尽なことがあってたまるかと。王の時間を止めるなと、そんなに止めたいのなら、いっそわしの時間を止めてくれと」
アールは調べに調べた末、ある術を使って、ダグラス王を目覚めさせることに成功しました。代わりに、アールの体の時間が止まりました。彼は不老不死の体になったのです。
「昔はわしも若かったのですよ。今は不幸か幸いか、わしを縛っていた魔法が解けはじめているようで、この通り汚いじじいになってしまいましたが」
そう言って、アールはほんの少しだけ笑いました。
王様とその子供たち、そしてアールは、クロックの存在を隠すことに決めました。世界とクロックの時間の流れをずらすことで、誰も入ってこられないようにしたのです。国に残ったのは家来の時計たちのほか、王様とその家族、アール、そして川に住む妖精、フローでした。彼女は人のような見ためをしていましたが、クロックの「時の流れ」そのもので、厳密には人間ではありませんでした。
「フローはどうしているの?」
「どこにもいませんよ。時が止まっているときに、時の流れが存在できるはずがない。消えてしまいました」
「え……」
かつての親友の存在を一瞬で否定され、レイは真っ青になりました。それに気づいていないのか、アールは目を泳がせながら続けました。
「わしは今でも、すべての始まりは国を出たシーザー王子だったのではないかと思っています。王の名前が受け継がれなくなってから、この国はおかしくなった」
「あの国は、何かがおかしい」
「怪しい邪教を信仰しているに違いない」
「何かうまいことやって、我々を騙しているんだ」
そんな声が、あちらこちらから聞こえてきました。
クロックに住む人々まで王様を疑いはじめました。根も葉もない噂が国中を駆け巡りました。そして、とうとう、武器を持った他の国と組んで、王様を殺しにかかりました。
しかし、ダグラスとその家族には、時を止める力がありました。王様は、国中の時間を止めることで、危機一髪、助かりました。
ところが、この「生きている人間の時間を止める」というのは、禁忌の術、やってはいけないことでした。もし、これを実行した場合、実行した人の時間が止められ、永遠に眠ったまま朽ち果ててしまうのです。
それを哀れに思った人がいました。それが、アールでした。彼は城、今の時計塔の地下にいて、無事だったのです。
「わしは、つくづく人間の愚かさを思い知りました。ダグラス王は、決して私利私欲のために時間を止めたことなんてありませんでした。王は洪水を止めたり、雲を止めて畑に日光をあてたりしていたのです。すべては国のため、民のためだと仰っていました。そんな恩も忘れて、いったい何をしているのやら! ですからわしは叫びました。こんな理不尽なことがあってたまるかと。王の時間を止めるなと、そんなに止めたいのなら、いっそわしの時間を止めてくれと」
アールは調べに調べた末、ある術を使って、ダグラス王を目覚めさせることに成功しました。代わりに、アールの体の時間が止まりました。彼は不老不死の体になったのです。
「昔はわしも若かったのですよ。今は不幸か幸いか、わしを縛っていた魔法が解けはじめているようで、この通り汚いじじいになってしまいましたが」
そう言って、アールはほんの少しだけ笑いました。
王様とその子供たち、そしてアールは、クロックの存在を隠すことに決めました。世界とクロックの時間の流れをずらすことで、誰も入ってこられないようにしたのです。国に残ったのは家来の時計たちのほか、王様とその家族、アール、そして川に住む妖精、フローでした。彼女は人のような見ためをしていましたが、クロックの「時の流れ」そのもので、厳密には人間ではありませんでした。
「フローはどうしているの?」
「どこにもいませんよ。時が止まっているときに、時の流れが存在できるはずがない。消えてしまいました」
「え……」
かつての親友の存在を一瞬で否定され、レイは真っ青になりました。それに気づいていないのか、アールは目を泳がせながら続けました。
「わしは今でも、すべての始まりは国を出たシーザー王子だったのではないかと思っています。王の名前が受け継がれなくなってから、この国はおかしくなった」