3 佑雲の祖母
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翌日の朝八時二十五分、教室の自分の席で、あかりはぼんやりと頬杖をついていた。
昨日は夕食後、まずは佑雲 行きの許可をとり、ルリとふたりで待ちあわせの約束をし、それからストラが散らかした部屋の片付けに追われた。
あかりが何かを片付けるたびに、ストラは別の場所をめちゃくちゃにしてしまうので、床の物を元あった場所に戻すだけで二時間以上もかかってしまった。おまけに、ストラが床に転がっていたルリのピアノ玩具を踏み壊してしまったので、ルリは怒り狂って泣き叫ぶし、ストラもそれに呼応するように泣きだすし、騒ぎを聞きつけて望月さんは飛んでくるしで、昨夜は息をつく暇もなかった。こんな調子ではまともに眠れそうになかったので、就寝前にストラを簡単な寝具と一緒に物置に使っているという小部屋に入れ、翌朝までそこからでないように命じた。幸い、彼は言葉に対する理解力は高いようで、おとなしく部屋にいてくれた。しかし、夜中にまたトラブルが起こるのではないかと気が気ではなかったあかりはうまく寝つくことができず、寝不足のまま登校する羽目になってしまった。
正直、こんなことが毎日続くのなら、子守りなんて二度としたくない。
一刻も早く、あの子供を元いた場所に送りかえさなければ……
「おはよー、片町さん」
ギイ、と隣の椅子を引く音がした。顔を上げると、スポーツバッグを肩にかけた男子と目があった。この人は、誰にでも気さくに挨拶をするのだ。
「おはよう、神崎 くん」
そう小さく返すと、神崎は目を細めて笑った。
「いやあ、夏休みなのに補講なんてだるいよな。な、ところでちょっとお願いがあるんだけど」
言うが早いか、神崎はバッグを机に置き、パンと手を合わせて九十度お辞儀をした。こげ茶色の前髪が小さく揺れる。
「今日さ、うっかり数学の教科書忘れたんだよ。授業中見せてもらえない?」
すると、神崎のそばにいた男子数人がケラケラと笑った。
「んだよ遥 あ、あんだけ忘れ物チェックしてやったのに、結局忘れたのかよお」
「うっせーな!第一、忘れものチェックったって、チャットで持ち物リスト送りつけてきただけじゃねーか!」
「友達の善意を無下にするとはひでーなあ」
彼らは全員サッカー部に所属している。あかりの隣一帯には、体育会系独特の空気が広がっていた。
「というわけで、片町さんお願い!迷惑はかけないから」
「別にいいよ」
あかりはそっけなく答えた。こういう人間は苦手だった。
「うわー、ありがと。恩にきるよ!」
こげ茶色の頭で三歳児のようにはしゃぐ彼の姿は、どことなく、あのストラを思いだす。そういえば、心なしか、顔つきも少し似ているような気がする。見慣れた顔のうるさい同級生すらストラに見えるなんて、今日の自分は相当疲れているに違いない。
あかりは神崎を無視して、窓の外を眺めた。この上なく澄んだ青色の、綺麗な空だった。
昨日は夕食後、まずは
あかりが何かを片付けるたびに、ストラは別の場所をめちゃくちゃにしてしまうので、床の物を元あった場所に戻すだけで二時間以上もかかってしまった。おまけに、ストラが床に転がっていたルリのピアノ玩具を踏み壊してしまったので、ルリは怒り狂って泣き叫ぶし、ストラもそれに呼応するように泣きだすし、騒ぎを聞きつけて望月さんは飛んでくるしで、昨夜は息をつく暇もなかった。こんな調子ではまともに眠れそうになかったので、就寝前にストラを簡単な寝具と一緒に物置に使っているという小部屋に入れ、翌朝までそこからでないように命じた。幸い、彼は言葉に対する理解力は高いようで、おとなしく部屋にいてくれた。しかし、夜中にまたトラブルが起こるのではないかと気が気ではなかったあかりはうまく寝つくことができず、寝不足のまま登校する羽目になってしまった。
正直、こんなことが毎日続くのなら、子守りなんて二度としたくない。
一刻も早く、あの子供を元いた場所に送りかえさなければ……
「おはよー、片町さん」
ギイ、と隣の椅子を引く音がした。顔を上げると、スポーツバッグを肩にかけた男子と目があった。この人は、誰にでも気さくに挨拶をするのだ。
「おはよう、
そう小さく返すと、神崎は目を細めて笑った。
「いやあ、夏休みなのに補講なんてだるいよな。な、ところでちょっとお願いがあるんだけど」
言うが早いか、神崎はバッグを机に置き、パンと手を合わせて九十度お辞儀をした。こげ茶色の前髪が小さく揺れる。
「今日さ、うっかり数学の教科書忘れたんだよ。授業中見せてもらえない?」
すると、神崎のそばにいた男子数人がケラケラと笑った。
「んだよ
「うっせーな!第一、忘れものチェックったって、チャットで持ち物リスト送りつけてきただけじゃねーか!」
「友達の善意を無下にするとはひでーなあ」
彼らは全員サッカー部に所属している。あかりの隣一帯には、体育会系独特の空気が広がっていた。
「というわけで、片町さんお願い!迷惑はかけないから」
「別にいいよ」
あかりはそっけなく答えた。こういう人間は苦手だった。
「うわー、ありがと。恩にきるよ!」
こげ茶色の頭で三歳児のようにはしゃぐ彼の姿は、どことなく、あのストラを思いだす。そういえば、心なしか、顔つきも少し似ているような気がする。見慣れた顔のうるさい同級生すらストラに見えるなんて、今日の自分は相当疲れているに違いない。
あかりは神崎を無視して、窓の外を眺めた。この上なく澄んだ青色の、綺麗な空だった。