3 佑雲の祖母
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虹の国。
そういえば、帰る直前に、ストラがそんなことを言っていた気がする。
「虹の国って、どこにあるの?」
「虹の国は、虹の国だよ」
ストラはすまして答えた。
「そうじゃなくて、その……近くに何があるかとか、どういう場所なのかとか」
「うーんとね、虹があるよ。それからね、女王様もいるんだよ」
ストラは嬉しそうに目を輝かせて答えた。あかりとルリは顔を見あわせた。
「話にならないわね」
「そうだね。ストラから聞いてもダメなのかも」
「それじゃ、どうするの?」
「おばあちゃんに訊いてみる」
ルリはすくっと立ちあがった。
「おばあちゃんって?」
「あたしにラピスラズリの杖をくれた人。夢空間についても詳しいの。おばあちゃんなら、ストラが何者なのかわかるかも」
「その人、どこにいるの?」
「『佑雲 』」
その地名を聞いて、あかりは脱力した。ここから電車で約一時間しかかからない。
「わりと近いのね」
「ねえ、おねーちゃん。明日おばあちゃん家に行こうよ。おばあちゃんにストラを見せて、どうすればいいのか教えてもらおう」
「うーん……」
あかりはしばし考えた。相手はルリの祖母なのだから望月さんから外出許可を得るのは簡単だろうし、あかりとしても、この子供を早いとこ片づけてしまいたい。だが、残念ながら明日は登校日なのである。
「行くのはいいけど、午前中は学校で講習があるのよ」
いわゆる補講である。出席がつくため、休むわけにはいかない。第一、無断欠席が母にばれたら、どんな目にあわされるかわかったものではない。
「じゃあ、午後でもいいよ。行こう!」
あかりはしぶしぶ、頷いた。正直気が進まないが、他人に見えない幽霊のような子供をいつまでも置いておくわけにはいかない。
ふたりが居間に行くと、すでにできあがった夕食が並べられていた。今夜は和食のようで、焼いたアジを中心に、和え物や漬物などの小鉢と味噌汁が置かれている。居間が畳敷きなのもあって、独特の古めかしい雰囲気がでていた。
「うわ、望月さんって料理上手なんですね」
「妻がよく家を留守にするからね。家事は僕のほうが得意なくらいなんだ」
望月さんがご飯をよそいながら、笑顔で答えた。
「お手伝いできなくてすみません」
「いやいや、そんなこと言わないで。ルリと遊んでくれるだけで大助かりだよ。さて、このくらいでいいかな?」
「はい……」
「ねえねえ、ふたりともどこ行くの?」
この空間にはありえないはずのあどけない声にぎょっとして顔をあげると、居間の入り口にストラがいた。そのままぺたぺたと中に入ってこようとするので、あかりは慌ててストラを廊下にひっぱりだした。
「どうかしたのかい?」
「すみません、すぐ戻ります!」
あかりは大急ぎで騒ぐストラを抱えあげ、彼をルリの部屋まで連行した。
「どうしてぼくは入っちゃだめなの?」
部屋に戻されたストラは、ふくれっ面であかりを見あげた。無理やり連れだされたのがよほど不満だったのだろう。
「君がいると、望月さんが……あのおじさんがびっくりしてしまうの。悪いけれど、私たちが帰るまでは部屋にいてくれないかしら」
そこまで言ってふと、あかりはこの子供が何も食べていないことに気がついた。
「ところで、何か食べたいものはある?」
するとストラは首をかしげた。
「たべる、ってなあに?」
ストラはなかなか、「食べる」という言葉を理解してくれなかった。色々と質問を投げかけてみたが、どうやら彼には、そもそも「食事をする」という概念がないらしい。
これはいよいよただごとじゃないぞ、とあかりはひとり眉をひそめた。
「とにかく、勝手にどこかに行くのはやめてね。すぐに戻るから」
そう言ってルリの部屋に押しこむのがやっとだった。ストラは不機嫌そうな顔をしていたが、あかりの剣幕におされ、不承不承部屋に戻った。
「大変なことになったなあ……」
居間に戻る途中、暗い廊下の中で、あかりはひとりつぶやいた。もはや、これが現実かどうかを怪しむ余裕すらなかった。
そういえば、帰る直前に、ストラがそんなことを言っていた気がする。
「虹の国って、どこにあるの?」
「虹の国は、虹の国だよ」
ストラはすまして答えた。
「そうじゃなくて、その……近くに何があるかとか、どういう場所なのかとか」
「うーんとね、虹があるよ。それからね、女王様もいるんだよ」
ストラは嬉しそうに目を輝かせて答えた。あかりとルリは顔を見あわせた。
「話にならないわね」
「そうだね。ストラから聞いてもダメなのかも」
「それじゃ、どうするの?」
「おばあちゃんに訊いてみる」
ルリはすくっと立ちあがった。
「おばあちゃんって?」
「あたしにラピスラズリの杖をくれた人。夢空間についても詳しいの。おばあちゃんなら、ストラが何者なのかわかるかも」
「その人、どこにいるの?」
「『
その地名を聞いて、あかりは脱力した。ここから電車で約一時間しかかからない。
「わりと近いのね」
「ねえ、おねーちゃん。明日おばあちゃん家に行こうよ。おばあちゃんにストラを見せて、どうすればいいのか教えてもらおう」
「うーん……」
あかりはしばし考えた。相手はルリの祖母なのだから望月さんから外出許可を得るのは簡単だろうし、あかりとしても、この子供を早いとこ片づけてしまいたい。だが、残念ながら明日は登校日なのである。
「行くのはいいけど、午前中は学校で講習があるのよ」
いわゆる補講である。出席がつくため、休むわけにはいかない。第一、無断欠席が母にばれたら、どんな目にあわされるかわかったものではない。
「じゃあ、午後でもいいよ。行こう!」
あかりはしぶしぶ、頷いた。正直気が進まないが、他人に見えない幽霊のような子供をいつまでも置いておくわけにはいかない。
ふたりが居間に行くと、すでにできあがった夕食が並べられていた。今夜は和食のようで、焼いたアジを中心に、和え物や漬物などの小鉢と味噌汁が置かれている。居間が畳敷きなのもあって、独特の古めかしい雰囲気がでていた。
「うわ、望月さんって料理上手なんですね」
「妻がよく家を留守にするからね。家事は僕のほうが得意なくらいなんだ」
望月さんがご飯をよそいながら、笑顔で答えた。
「お手伝いできなくてすみません」
「いやいや、そんなこと言わないで。ルリと遊んでくれるだけで大助かりだよ。さて、このくらいでいいかな?」
「はい……」
「ねえねえ、ふたりともどこ行くの?」
この空間にはありえないはずのあどけない声にぎょっとして顔をあげると、居間の入り口にストラがいた。そのままぺたぺたと中に入ってこようとするので、あかりは慌ててストラを廊下にひっぱりだした。
「どうかしたのかい?」
「すみません、すぐ戻ります!」
あかりは大急ぎで騒ぐストラを抱えあげ、彼をルリの部屋まで連行した。
「どうしてぼくは入っちゃだめなの?」
部屋に戻されたストラは、ふくれっ面であかりを見あげた。無理やり連れだされたのがよほど不満だったのだろう。
「君がいると、望月さんが……あのおじさんがびっくりしてしまうの。悪いけれど、私たちが帰るまでは部屋にいてくれないかしら」
そこまで言ってふと、あかりはこの子供が何も食べていないことに気がついた。
「ところで、何か食べたいものはある?」
するとストラは首をかしげた。
「たべる、ってなあに?」
ストラはなかなか、「食べる」という言葉を理解してくれなかった。色々と質問を投げかけてみたが、どうやら彼には、そもそも「食事をする」という概念がないらしい。
これはいよいよただごとじゃないぞ、とあかりはひとり眉をひそめた。
「とにかく、勝手にどこかに行くのはやめてね。すぐに戻るから」
そう言ってルリの部屋に押しこむのがやっとだった。ストラは不機嫌そうな顔をしていたが、あかりの剣幕におされ、不承不承部屋に戻った。
「大変なことになったなあ……」
居間に戻る途中、暗い廊下の中で、あかりはひとりつぶやいた。もはや、これが現実かどうかを怪しむ余裕すらなかった。