2 夢空間
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あかりたちはまた、青白い光に囲まれて、紫色の星空の中にぼんやりと浮いていた。ルリが不満そうにぼやいた。
「あーあ。あの子、もう起きちゃった。もう少し夢を見ていてほしかったなあ。最高においしい夢だったのに」
それから、あかりの方を振りかえった。
「あっ、もう手を離しても大丈夫だよ。杖がおねーちゃんを認識してくれたから、迷子にはならないよ」
「ほ、本当?」
それまできつくルリの手を握っていたあかりは、そうっとルリから手を離した。あかりの体は落下することなく、その場に留まっていた。
「あれ?」
ルリがひょいと身を乗り出して、あかりの左手を覗きこんだ。
「誰、この子?」
はっと左を見ると、そこにはストラがいた。ストラは目をぱちぱちさせて、キョロキョロと辺りを見渡し、それからルリをじっと見た。
「おねーちゃん、この子誰だか知ってる?」
あかりはうろたえた。
「あの、この子、さっきのお菓子だらけの場所にいて……ルリが私をせかすから、私、うっかりこの子を掴んじゃって……」
「そんな、まさか。だってあの子の夢はもう終わったのに!」
ルリは心底不思議そうにストラを観察した。
「ねえ、君は誰なの?」
「ぼくはストラだよ。君は?」
すると、ルリは即座に答えた。
「あたしはルリ。こっちのおねーちゃんは『あかり』っていうの」
あっさりと名前を明かしてしまった。さっきと言っていることが違う。
「ルリ、名前を教えちゃっていいの?」
「だって、この子、夢の持ち主じゃなさそうなんだもん。名前を教えちゃいけないのは、夢の持ち主だけ。じゃないと、世界中にあたしの名前が知れわたっちゃうからね」
ルリは大げさに肩をすくめて見せた。十歳の子供がやるような仕草ではないような気もするが、そんなことはどうでもよかった。
「あたしは有名人になるのも悪くないなあって思うんだけど、おばあちゃんが絶対ダメって言うの。もしも顔と名前を覚えられていたら、犯罪に巻きこまれるから、って」
「なるほど」
確かに、自分の夢に現れた人物と同じ姿の人間が実際に現れたら、なんだか気味が悪い。もしも名前まで同じだったら、何かオカルト的な運命でもあるのかと錯覚してしまいそうだ。
「で、ええっと、ストラだっけ」
ルリはふたたびストラに視線をむけて尋ねた。
「なんで夢空間なんかにいるの?」
「ぼく、迷子になっちゃったの」
ストラはあっさりと答えた。しかし、「迷子」という重大な問題の割にはあっけらかんとしている。彼は自分の境遇についてあまり深刻に考えてはないようだった。
「ぼく、虹の国にいたの。だけど、手を引っぱられて、気づいたらこのお星様がたくさんあるところにいたんだ。そしたら、色んなものがあって、楽しくてあちこち行って遊んでたら、はぐれちゃって、自分がどこにいるかわからなくなっちゃった」
「虹の国? それって、何……」
「待って!」
あかりが尋ねようとすると、ルリが急に自分の杖をじっと見て声を張りあげた。
「そろそろ六時になっちゃう。もう帰らないと、ご飯に間にあわないよ」
あかりはぽかんとした。ルリの様子は、さながら時計を見てはじめて現在時刻を認知した人間のようだった。しかし、彼女が持っているのは杖である。杖を見て焦る人間など見たことがない。
「時間がわかるの?」
「うん。この杖は時計でもあるから、時間も教えてくれるの。夢空間でもちゃんと動く、特別な時計なんだよ。一秒も狂わないんだから」
ルリは得意げに言うと、ぐっと杖を握りなおした。
「一旦帰るよ。話をするのはあと!」
そして、泳ぐような体勢で、星空の中を突っきりはじめた。つられて、あかりたちの体も横向きになって飛びはじめた。ストラは自分が飛んでいることに驚いていないらしく、あかりから手を離して、自由に飛びまわりはじめた。
「杖の力があるから大丈夫。あたしについてきて!」
仕方がないので、あかりは言われたとおりについていった。といっても、体が勝手に向きを変えてルリについていくので、あかりは特に何もする必要がなかった。
しかし、この星空といい、菓子といい、ストラの存在といい、まったくもって、さっきから理解できないことばかりである。
あかりは不気味な星空を見あげ、どうかこれが夢であることを願った。だが、この体験は何ひとつ夢ではなかったらしく、最後まで彼女の目が醒めることはなかった。
「あーあ。あの子、もう起きちゃった。もう少し夢を見ていてほしかったなあ。最高においしい夢だったのに」
それから、あかりの方を振りかえった。
「あっ、もう手を離しても大丈夫だよ。杖がおねーちゃんを認識してくれたから、迷子にはならないよ」
「ほ、本当?」
それまできつくルリの手を握っていたあかりは、そうっとルリから手を離した。あかりの体は落下することなく、その場に留まっていた。
「あれ?」
ルリがひょいと身を乗り出して、あかりの左手を覗きこんだ。
「誰、この子?」
はっと左を見ると、そこにはストラがいた。ストラは目をぱちぱちさせて、キョロキョロと辺りを見渡し、それからルリをじっと見た。
「おねーちゃん、この子誰だか知ってる?」
あかりはうろたえた。
「あの、この子、さっきのお菓子だらけの場所にいて……ルリが私をせかすから、私、うっかりこの子を掴んじゃって……」
「そんな、まさか。だってあの子の夢はもう終わったのに!」
ルリは心底不思議そうにストラを観察した。
「ねえ、君は誰なの?」
「ぼくはストラだよ。君は?」
すると、ルリは即座に答えた。
「あたしはルリ。こっちのおねーちゃんは『あかり』っていうの」
あっさりと名前を明かしてしまった。さっきと言っていることが違う。
「ルリ、名前を教えちゃっていいの?」
「だって、この子、夢の持ち主じゃなさそうなんだもん。名前を教えちゃいけないのは、夢の持ち主だけ。じゃないと、世界中にあたしの名前が知れわたっちゃうからね」
ルリは大げさに肩をすくめて見せた。十歳の子供がやるような仕草ではないような気もするが、そんなことはどうでもよかった。
「あたしは有名人になるのも悪くないなあって思うんだけど、おばあちゃんが絶対ダメって言うの。もしも顔と名前を覚えられていたら、犯罪に巻きこまれるから、って」
「なるほど」
確かに、自分の夢に現れた人物と同じ姿の人間が実際に現れたら、なんだか気味が悪い。もしも名前まで同じだったら、何かオカルト的な運命でもあるのかと錯覚してしまいそうだ。
「で、ええっと、ストラだっけ」
ルリはふたたびストラに視線をむけて尋ねた。
「なんで夢空間なんかにいるの?」
「ぼく、迷子になっちゃったの」
ストラはあっさりと答えた。しかし、「迷子」という重大な問題の割にはあっけらかんとしている。彼は自分の境遇についてあまり深刻に考えてはないようだった。
「ぼく、虹の国にいたの。だけど、手を引っぱられて、気づいたらこのお星様がたくさんあるところにいたんだ。そしたら、色んなものがあって、楽しくてあちこち行って遊んでたら、はぐれちゃって、自分がどこにいるかわからなくなっちゃった」
「虹の国? それって、何……」
「待って!」
あかりが尋ねようとすると、ルリが急に自分の杖をじっと見て声を張りあげた。
「そろそろ六時になっちゃう。もう帰らないと、ご飯に間にあわないよ」
あかりはぽかんとした。ルリの様子は、さながら時計を見てはじめて現在時刻を認知した人間のようだった。しかし、彼女が持っているのは杖である。杖を見て焦る人間など見たことがない。
「時間がわかるの?」
「うん。この杖は時計でもあるから、時間も教えてくれるの。夢空間でもちゃんと動く、特別な時計なんだよ。一秒も狂わないんだから」
ルリは得意げに言うと、ぐっと杖を握りなおした。
「一旦帰るよ。話をするのはあと!」
そして、泳ぐような体勢で、星空の中を突っきりはじめた。つられて、あかりたちの体も横向きになって飛びはじめた。ストラは自分が飛んでいることに驚いていないらしく、あかりから手を離して、自由に飛びまわりはじめた。
「杖の力があるから大丈夫。あたしについてきて!」
仕方がないので、あかりは言われたとおりについていった。といっても、体が勝手に向きを変えてルリについていくので、あかりは特に何もする必要がなかった。
しかし、この星空といい、菓子といい、ストラの存在といい、まったくもって、さっきから理解できないことばかりである。
あかりは不気味な星空を見あげ、どうかこれが夢であることを願った。だが、この体験は何ひとつ夢ではなかったらしく、最後まで彼女の目が醒めることはなかった。