2 夢空間
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
次に目を開けたとき、あかりの目の前にあったのは、直径三メートルはあるであろう、棒付きのロリポップだった。その隣には、車一台がまるごと収まりそうなグラスに入った、チョコレートパフェのようなものがあった。そのほか、パンケーキやらコーン付きのアイスクリームやら、とにかくばかでかい菓子が、そこらじゅうに転がっていた。
どうやらここはドーム型の建物の中で、その中に様々なビッグサイズのスイーツが無造作に置かれているようだった。壁や天井がオレンジ色なのもあって、遊園地のような不可思議な光景に仕上がっている。
隣ではルリが目をキラキラさせて菓子たちを見つめていた。あかりにはわけがわからなかった。
「何ここ。写真スタジオ?」
「ちがうよ。多分、だれかの夢の中。カラフルで面白そうだったから来てみたんだけど、まさかお菓子の夢だったなんて!」
言うや否や、ルリは近くの板チョコレートに向かって走りだした。あかりは慌てて後を追った。
「いや、ちょっと。夢の中って何よ!?」
「だからぁ、ここはだれかの夢の中なの。あたしたち、夢空間を通ってこの人の夢の中に遊びに来たんだよ」
ルリはチョコレートにギリギリと力をかけた。しばらくすると、チョコレートはパキンと割れて、二十センチ四方の小さな欠片がとれた。
「じゃあ、何? ここは夢の中だっていうの?」
「うん、そういうこと。あっ、きっとあれがこの夢の持ち主だよ」
チョコレートを頬張りながら、ルリはパフェの方を指さした。パフェの下では、大きなスプーンを抱えたルリと同じくらいの背丈の少女がいた。少女はこちらに気づくと、スプーンを抱えて駆けよってきた。スプーンは、あかりの背丈くらいはあった。
「あなたたち、だあれ?」
あかりが口を開く前に、ルリが答えた。
「名前は教えない。おばあちゃんに教えちゃダメって言われてるから。それで、どうかしたの?」
「うーんと、あのパフェを食べたいんだけど、どうしても届かなくて」
「なんだ、じゃあそのスプーンでグラスを倒せばいいじゃん」
「あっ、そっか!」
「ねえ、あたしもパフェ食べていい?」
「いーよ!」
ふたりの少女は仲良くパフェの方へ走って行ってしまった。
そのとき、背後でごとりという音がした。反射的に振りかえると、白い半袖の服を着た子供が、そばにおちているクッキーを不思議そうに眺めていた。微妙な長さのその服は、白いワンピースにも見えるし、だぼだぼのロングTシャツにも見える。足は裸足だった。
あかりは思わず声をかけた。
「君、何してるの?」
子供はぱっと顔を上げた。こげ茶色のショートヘアで、目は薄い緑だった。国籍も性別も、見ただけではよくわからない。
「えーっと、私の言ってることはわかる?」
子供はうなずいた。
「ぼく、ちゃんとわかるよ。どうしてそんな変なことを言うの?」
見た目通りの甲高い声だった。ひとまず、言葉は通じるらしい。あかりはおそるおそる訊いた。
「『ぼく』ってことは、男の子なの?」
もちろん、そうではない可能性も十分に考えられた。しかし、子供はしばらく考えこんでから、不安げに答えた。
「多分そうだったと思うよ。女王様がそう言っていたような気がする。アンジュは女の子で、ぼくはそうじゃなかったはずだから」
あかりはぎょっとした。どうやら、この子もルリと同じく相当おかしな子供らしい。
「えーと、その女王様とか、そういうのはわからないけど、とりあえず男の子なのね。それで、君の名前は?」
言ってしまってから、あかりはハッとした。ついさっき、ルリが「名前は教えない」と言っていたことを思いだしたからである。しかし、子供はにっこり笑って答えてくれた。
「ぼくはストラ。ここはなんだか色んなものがあって面白いね。君は?」
あかりは戸惑った。ルリは、まだ誰にも名前を教えていない。ここは、ただでさえ理解不能な場所だ。そんな場所で、ルリがしていないことをあかりだけがするのは、どう考えてもリスキーである。どう答えたものか迷っていると、地鳴りとともに、天井の方から大声が降ってきた。
『マイナあぁ! いつまで寝てるのぉ! ご飯だから起きなさぁい!』
それと同時に、オレンジ色の天井にバキバキとひびが入った。ルリが杖を片手に、猛スピードで菓子の隙間を駆けぬけ、こちらにやってきた。
「掴まって! この子の夢が終わっちゃう!」
「え、えええ?」
「早く、迷子になっちゃうよ!」
「ちょ、ちょっと待って……」
あかりは咄嗟に、右手でルリの手を、左手でストラの腕を掴んだ。
その瞬間、菓子だらけの空間はあっという間にバラバラに砕け、砂のように細かくなって消えてしまった。
どうやらここはドーム型の建物の中で、その中に様々なビッグサイズのスイーツが無造作に置かれているようだった。壁や天井がオレンジ色なのもあって、遊園地のような不可思議な光景に仕上がっている。
隣ではルリが目をキラキラさせて菓子たちを見つめていた。あかりにはわけがわからなかった。
「何ここ。写真スタジオ?」
「ちがうよ。多分、だれかの夢の中。カラフルで面白そうだったから来てみたんだけど、まさかお菓子の夢だったなんて!」
言うや否や、ルリは近くの板チョコレートに向かって走りだした。あかりは慌てて後を追った。
「いや、ちょっと。夢の中って何よ!?」
「だからぁ、ここはだれかの夢の中なの。あたしたち、夢空間を通ってこの人の夢の中に遊びに来たんだよ」
ルリはチョコレートにギリギリと力をかけた。しばらくすると、チョコレートはパキンと割れて、二十センチ四方の小さな欠片がとれた。
「じゃあ、何? ここは夢の中だっていうの?」
「うん、そういうこと。あっ、きっとあれがこの夢の持ち主だよ」
チョコレートを頬張りながら、ルリはパフェの方を指さした。パフェの下では、大きなスプーンを抱えたルリと同じくらいの背丈の少女がいた。少女はこちらに気づくと、スプーンを抱えて駆けよってきた。スプーンは、あかりの背丈くらいはあった。
「あなたたち、だあれ?」
あかりが口を開く前に、ルリが答えた。
「名前は教えない。おばあちゃんに教えちゃダメって言われてるから。それで、どうかしたの?」
「うーんと、あのパフェを食べたいんだけど、どうしても届かなくて」
「なんだ、じゃあそのスプーンでグラスを倒せばいいじゃん」
「あっ、そっか!」
「ねえ、あたしもパフェ食べていい?」
「いーよ!」
ふたりの少女は仲良くパフェの方へ走って行ってしまった。
そのとき、背後でごとりという音がした。反射的に振りかえると、白い半袖の服を着た子供が、そばにおちているクッキーを不思議そうに眺めていた。微妙な長さのその服は、白いワンピースにも見えるし、だぼだぼのロングTシャツにも見える。足は裸足だった。
あかりは思わず声をかけた。
「君、何してるの?」
子供はぱっと顔を上げた。こげ茶色のショートヘアで、目は薄い緑だった。国籍も性別も、見ただけではよくわからない。
「えーっと、私の言ってることはわかる?」
子供はうなずいた。
「ぼく、ちゃんとわかるよ。どうしてそんな変なことを言うの?」
見た目通りの甲高い声だった。ひとまず、言葉は通じるらしい。あかりはおそるおそる訊いた。
「『ぼく』ってことは、男の子なの?」
もちろん、そうではない可能性も十分に考えられた。しかし、子供はしばらく考えこんでから、不安げに答えた。
「多分そうだったと思うよ。女王様がそう言っていたような気がする。アンジュは女の子で、ぼくはそうじゃなかったはずだから」
あかりはぎょっとした。どうやら、この子もルリと同じく相当おかしな子供らしい。
「えーと、その女王様とか、そういうのはわからないけど、とりあえず男の子なのね。それで、君の名前は?」
言ってしまってから、あかりはハッとした。ついさっき、ルリが「名前は教えない」と言っていたことを思いだしたからである。しかし、子供はにっこり笑って答えてくれた。
「ぼくはストラ。ここはなんだか色んなものがあって面白いね。君は?」
あかりは戸惑った。ルリは、まだ誰にも名前を教えていない。ここは、ただでさえ理解不能な場所だ。そんな場所で、ルリがしていないことをあかりだけがするのは、どう考えてもリスキーである。どう答えたものか迷っていると、地鳴りとともに、天井の方から大声が降ってきた。
『マイナあぁ! いつまで寝てるのぉ! ご飯だから起きなさぁい!』
それと同時に、オレンジ色の天井にバキバキとひびが入った。ルリが杖を片手に、猛スピードで菓子の隙間を駆けぬけ、こちらにやってきた。
「掴まって! この子の夢が終わっちゃう!」
「え、えええ?」
「早く、迷子になっちゃうよ!」
「ちょ、ちょっと待って……」
あかりは咄嗟に、右手でルリの手を、左手でストラの腕を掴んだ。
その瞬間、菓子だらけの空間はあっという間にバラバラに砕け、砂のように細かくなって消えてしまった。