1 近所のおかしな子
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ルリは、クローゼットの奥から細長い箱を引っぱりだした。パッと見、一メートルはある。
「おばあちゃんは、あんまり人に見せちゃダメって言ったの。だから、パパにも見せていないの。でも、おねーちゃんには特別に見せてあげる」
箱から出てきたのは、不思議な白い棒状の物体だった。陶磁器のようなつやつやした細いツタらしき何かが、幾重にも巻きつきあって、ひとつの棒のようになっている。棒のてっぺんはツタがばらけていて、ちょうど木の枝の先のようになっていた。
そして、その白い棒のあちこちに、ビー玉サイズの青い玉がくっついていた。とても濃い青で、群青色に近い。玉の中には黒や銀のまだら模様がはいっており、お世辞にも綺麗とは言いがたかった。
「ええと、なんていうか……神秘的ね」
「これはね、ラピスラズリの木の枝なの」
ルリはまじめくさった表情であかりの顔を覗きこんだ。
「ラピスラズリの木っていう、幻の木の一部なの。これを使うと、いろんな場所に行くことができるんだよ。ラピスラズリの聖なる力が宿っているから、魔法の力も持っているの。だから、おばあちゃんとあたしは、これを『ラピスラズリの杖』って呼んでいるの」
「ラピスラズリ……?」
あかりはしばらく考えこんだ。確か、アクセサリーに使われる青い宝石に、そんな名前の石があった気がする。しかし、極めて高価かというと、そんなことはない。通販で買える程度の物だし、おそらく、あかりの母のジュエリーケースにも、ひとつかふたつ入っていたはずだ。
「あたしね、ずうっと前から、これが欲しかったの。それでね、ずうっとおばあちゃんにおねだりしていたの。そしたら、このあいだ、ようやくおばあちゃんがこれをあたしに手渡してくれたの。『ルリももう十歳だし、ちょっと早いけどプレゼントするわね』って」
「え、あ、そうなんだ?」
あかりはうわの空だった意識をあわてて引きもどした。
「あたし、この杖を使ってみようと思うの。でも、学校の子は、だあれもこの杖のことを信じてくれないの。だから、おねーちゃんが来てくれるのを待っていたの。おねーちゃんは学校の子と違って、あたしの話を聞いてくれるもん」
「なるほどね」
ここにきてようやく、あかりは自分が慕われている理由に思いあたった。この子は毎回、こうしておかしな話を延々とする子だった。そして、これまで、そういう話を持ちだされるたび、あかりは特に何も考えずに生返事をしていた。しかし、どうやらルリは、あかりがこうして相槌を打ってくれることを気にいっていたらしい。
「まあ、いいよ。別に」
明言こそされていないが、今回あかりに任されているのは子守りだ。子供のこういうおとぎ話に乗っかって、一緒に遊んでやるのも仕事のうちだ。体育会系のクラスメートに引きずられて、やりたくもないプロジェクトに協力させられるのに比べれば、なんてことはない。
「やった! じゃあ、いくよ」
言うが早いか、ルリはどこからか、大きな麻布を持ってきた。そこには、なんとも中二病めいた魔法円が描かれていた。
「この陣の上に乗って!」
「はいはい」
あかりが布の上に立つと、ルリは自身も布の上にやってきて、「ラピスラズリの杖」をかかげた。
「夢空間へ導いて!」
「えっ?」
突然、ぐにゃりと視界が歪んだ。
そして、だんだんと視界に黒いもやがかかりはじめる。
おまけに、めまいのような感覚にも襲われた。
(何が起こったの?)
何がなんだかわからないが、今の状況がまずいことだけは、よくわかった。
あまりにも目の前の景色がぐねぐねと動くので、あかりは立っていられなくなり、へなへなと座りこんだ。
「う……」
目の奥がずきずきする。あかりは眉間を指で押さえた。
「おねーちゃん、大丈夫?」
ルリの声と、小さな手が顔に触れる感覚がした。その瞬間、痛みはすうっと引いていった。
ゆっくりとまぶたを持ちあげてみる。そこにあるのは部屋の壁と窓のはずである。
ところが、違った。目の前に広がっていたのは、紫色の薄い雲、それに煌々と輝く満天の星空だった。
「あれっ!?」
驚くあかりを見て、ルリはいたずらっぽく歯を見せて笑った。
「大成功! 夢空間へ来ることができたよ、おねーちゃん」
「おばあちゃんは、あんまり人に見せちゃダメって言ったの。だから、パパにも見せていないの。でも、おねーちゃんには特別に見せてあげる」
箱から出てきたのは、不思議な白い棒状の物体だった。陶磁器のようなつやつやした細いツタらしき何かが、幾重にも巻きつきあって、ひとつの棒のようになっている。棒のてっぺんはツタがばらけていて、ちょうど木の枝の先のようになっていた。
そして、その白い棒のあちこちに、ビー玉サイズの青い玉がくっついていた。とても濃い青で、群青色に近い。玉の中には黒や銀のまだら模様がはいっており、お世辞にも綺麗とは言いがたかった。
「ええと、なんていうか……神秘的ね」
「これはね、ラピスラズリの木の枝なの」
ルリはまじめくさった表情であかりの顔を覗きこんだ。
「ラピスラズリの木っていう、幻の木の一部なの。これを使うと、いろんな場所に行くことができるんだよ。ラピスラズリの聖なる力が宿っているから、魔法の力も持っているの。だから、おばあちゃんとあたしは、これを『ラピスラズリの杖』って呼んでいるの」
「ラピスラズリ……?」
あかりはしばらく考えこんだ。確か、アクセサリーに使われる青い宝石に、そんな名前の石があった気がする。しかし、極めて高価かというと、そんなことはない。通販で買える程度の物だし、おそらく、あかりの母のジュエリーケースにも、ひとつかふたつ入っていたはずだ。
「あたしね、ずうっと前から、これが欲しかったの。それでね、ずうっとおばあちゃんにおねだりしていたの。そしたら、このあいだ、ようやくおばあちゃんがこれをあたしに手渡してくれたの。『ルリももう十歳だし、ちょっと早いけどプレゼントするわね』って」
「え、あ、そうなんだ?」
あかりはうわの空だった意識をあわてて引きもどした。
「あたし、この杖を使ってみようと思うの。でも、学校の子は、だあれもこの杖のことを信じてくれないの。だから、おねーちゃんが来てくれるのを待っていたの。おねーちゃんは学校の子と違って、あたしの話を聞いてくれるもん」
「なるほどね」
ここにきてようやく、あかりは自分が慕われている理由に思いあたった。この子は毎回、こうしておかしな話を延々とする子だった。そして、これまで、そういう話を持ちだされるたび、あかりは特に何も考えずに生返事をしていた。しかし、どうやらルリは、あかりがこうして相槌を打ってくれることを気にいっていたらしい。
「まあ、いいよ。別に」
明言こそされていないが、今回あかりに任されているのは子守りだ。子供のこういうおとぎ話に乗っかって、一緒に遊んでやるのも仕事のうちだ。体育会系のクラスメートに引きずられて、やりたくもないプロジェクトに協力させられるのに比べれば、なんてことはない。
「やった! じゃあ、いくよ」
言うが早いか、ルリはどこからか、大きな麻布を持ってきた。そこには、なんとも中二病めいた魔法円が描かれていた。
「この陣の上に乗って!」
「はいはい」
あかりが布の上に立つと、ルリは自身も布の上にやってきて、「ラピスラズリの杖」をかかげた。
「夢空間へ導いて!」
「えっ?」
突然、ぐにゃりと視界が歪んだ。
そして、だんだんと視界に黒いもやがかかりはじめる。
おまけに、めまいのような感覚にも襲われた。
(何が起こったの?)
何がなんだかわからないが、今の状況がまずいことだけは、よくわかった。
あまりにも目の前の景色がぐねぐねと動くので、あかりは立っていられなくなり、へなへなと座りこんだ。
「う……」
目の奥がずきずきする。あかりは眉間を指で押さえた。
「おねーちゃん、大丈夫?」
ルリの声と、小さな手が顔に触れる感覚がした。その瞬間、痛みはすうっと引いていった。
ゆっくりとまぶたを持ちあげてみる。そこにあるのは部屋の壁と窓のはずである。
ところが、違った。目の前に広がっていたのは、紫色の薄い雲、それに煌々と輝く満天の星空だった。
「あれっ!?」
驚くあかりを見て、ルリはいたずらっぽく歯を見せて笑った。
「大成功! 夢空間へ来ることができたよ、おねーちゃん」