3 佑雲の祖母
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補講後、学内で昼食を済ませると、あかりは学生鞄をボストンバッグに押しこみ、約束通り駅へと向かった。なぜボストンバッグを持ってきているかというと、今日はルリの祖母なる人の家に宿泊することになったからである。どうやら、午後から行くことで帰りが遅くなることを心配してくれたらしい。
駅の待ちあわせ場所に着くと、望月さんと、ぶすくれたルリが立っていた。ルリの手にはストラの右手首が握られている。ストラはあかりに気がつくと、助けを求めるような表情で左手をこちらにのばしてきた。どうやら、右手を強く掴まれているせいで、身動きがとれないらしい。ルリは、昨日の一件でそうとう頭にきているのか、ストラの右手首をぎりぎりと握りしめたまま、離そうとはしない。ストラも、そんなルリの様子に気づいているのか、随分としおらしかった。
「遅くなってすみません」
「いいや、こちらこそ。ルリがわがままを言ってごめんね。じゃあ、あとは頼めるかな」
望月さんは、ぽんとルリの頭を叩くとあかりのほうに向きなおった。
「昨日、住所は教えたと思うけど……母の家は駅からそれほど遠くない。まあ、もしも迷ったら僕に電話してくれればいいさ。ルリはさわがしい娘だけれど、交通機関でのマナーくらいは守れるはずだから、安心して」
「はい、それは大丈夫だと思います。特に今日は」
あかりは、相変わらず口を一文字に引きむすんだままのルリと、そんなルリに怯えっぱなしのストラを一瞥して答えた。
望月さんと別れたあと、切符を買っていると、ストラが左手であかりのセーラー服の裾を引っぱった。右手はルリに掴まれたままだった。
「ねえ、あかり」
「駄目。外にいるあいだは、私たちに話しかけないって約束したでしょう?」
「う……」
涙目になって、今にも泣きだしそうなストラに対し、ルリが低い声で言った。
「へえ、約束を破る気? 別にあたしたち、今ここでストラを見捨てることもできるんだよ?」
あかりはぞっとした。昨日のルリとはまるで別人である。いくら天真爛漫なルリといえども、お気に入り──のちに本人がそう言っていただけだが──を壊された恨みはそう簡単には消せないらしい。
「ごめんね。私たち、人前で君と話をするわけにはいかないの」
あかりは駅の騒音に紛れる程度の小声でささやいた。幸い、駅はすいていて三人の近くには誰もいない。これくらいの音量なら、誰にも聞こえないだろう。
「君の姿は私たちにしか見えないの。今朝、三人で外にでたときも、誰にも気づかれなかったでしょう?」
そう、じつは今日の朝、あかりはルリにせがまれて、ルリとストラを数分だけ家の外へ連れていっていた。そこでわかったのは、彼がルリとあかり以外の人間にストラは見えないのだということと、彼に靴を履かせると、周囲の人間には靴だけが動いて見えてしまうということだった。結局、ストラが裸足でも大丈夫だと言ったので、今現在、この駅構内でも彼は裸足のままである。
「うう……」
ストラは歯をくいしばったまま、涙目でうなだれていたが、結局泣くことはなかった。
もしかしたら、躾をされていないだけで、本当は聞き分けのいい子なのかもしれない、とあかりは思った。そういえば、ストラの家族について、あかりはなにも聞いていない。よくよく考えてみると、こんな小さな子がひとりぼっちで知らないところに連れてこられて、不安にならないはずがない。そう考えると、ひどく可哀想になった。いずれ、この子の家族についても調べてみる必要がありそうだ。
あかりはストラをなぐさめようと、彼に手をのばしかけた。が、少し考えて手をひっこめた。この子は自分とルリにしか見えていない。このままストラに触れてしまえば、怪しげなパントマイムをしている変人と見なされてしまうだろう。あかりは自然な動作でストラから目をそらし、何食わぬ顔で券売機から切符をとってルリに手渡した。
私には何も見えていない 。あかりは自分にそう言い聞かせた。
駅の待ちあわせ場所に着くと、望月さんと、ぶすくれたルリが立っていた。ルリの手にはストラの右手首が握られている。ストラはあかりに気がつくと、助けを求めるような表情で左手をこちらにのばしてきた。どうやら、右手を強く掴まれているせいで、身動きがとれないらしい。ルリは、昨日の一件でそうとう頭にきているのか、ストラの右手首をぎりぎりと握りしめたまま、離そうとはしない。ストラも、そんなルリの様子に気づいているのか、随分としおらしかった。
「遅くなってすみません」
「いいや、こちらこそ。ルリがわがままを言ってごめんね。じゃあ、あとは頼めるかな」
望月さんは、ぽんとルリの頭を叩くとあかりのほうに向きなおった。
「昨日、住所は教えたと思うけど……母の家は駅からそれほど遠くない。まあ、もしも迷ったら僕に電話してくれればいいさ。ルリはさわがしい娘だけれど、交通機関でのマナーくらいは守れるはずだから、安心して」
「はい、それは大丈夫だと思います。特に今日は」
あかりは、相変わらず口を一文字に引きむすんだままのルリと、そんなルリに怯えっぱなしのストラを一瞥して答えた。
望月さんと別れたあと、切符を買っていると、ストラが左手であかりのセーラー服の裾を引っぱった。右手はルリに掴まれたままだった。
「ねえ、あかり」
「駄目。外にいるあいだは、私たちに話しかけないって約束したでしょう?」
「う……」
涙目になって、今にも泣きだしそうなストラに対し、ルリが低い声で言った。
「へえ、約束を破る気? 別にあたしたち、今ここでストラを見捨てることもできるんだよ?」
あかりはぞっとした。昨日のルリとはまるで別人である。いくら天真爛漫なルリといえども、お気に入り──のちに本人がそう言っていただけだが──を壊された恨みはそう簡単には消せないらしい。
「ごめんね。私たち、人前で君と話をするわけにはいかないの」
あかりは駅の騒音に紛れる程度の小声でささやいた。幸い、駅はすいていて三人の近くには誰もいない。これくらいの音量なら、誰にも聞こえないだろう。
「君の姿は私たちにしか見えないの。今朝、三人で外にでたときも、誰にも気づかれなかったでしょう?」
そう、じつは今日の朝、あかりはルリにせがまれて、ルリとストラを数分だけ家の外へ連れていっていた。そこでわかったのは、彼がルリとあかり以外の人間にストラは見えないのだということと、彼に靴を履かせると、周囲の人間には靴だけが動いて見えてしまうということだった。結局、ストラが裸足でも大丈夫だと言ったので、今現在、この駅構内でも彼は裸足のままである。
「うう……」
ストラは歯をくいしばったまま、涙目でうなだれていたが、結局泣くことはなかった。
もしかしたら、躾をされていないだけで、本当は聞き分けのいい子なのかもしれない、とあかりは思った。そういえば、ストラの家族について、あかりはなにも聞いていない。よくよく考えてみると、こんな小さな子がひとりぼっちで知らないところに連れてこられて、不安にならないはずがない。そう考えると、ひどく可哀想になった。いずれ、この子の家族についても調べてみる必要がありそうだ。
あかりはストラをなぐさめようと、彼に手をのばしかけた。が、少し考えて手をひっこめた。この子は自分とルリにしか見えていない。このままストラに触れてしまえば、怪しげなパントマイムをしている変人と見なされてしまうだろう。あかりは自然な動作でストラから目をそらし、何食わぬ顔で券売機から切符をとってルリに手渡した。
私には