23.覚悟
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余韻覚めやらぬ次の日。
心がざわざわとまとまらないまま迎えた朝の空気はどんよりとしている。空は今にも雨が降りそうな、どんよりとした色をしている。
こんな日はいつもバスで出かけると言うのに、なんだかぼうっとしていたせいか、気がついたら自転車に跨っていて、そしてもうすぐ学校に着くところまで来ていた。
頬にぽつりと落ちてきた雨粒で目を覚まされる。
「わ・・・わわわわ!早くしなきゃ!」
健闘虚しくびしょ濡れになった奈々がクラスのドアを開けると、ポタポタと滴をたらしながら歩く存在に気がついたクラスメイトが次々と駆け寄ってきた。
「ちょ、ちょっと奈々!傘、忘れたのぉ?」
「いやー・・・持ってはいたんだけど、自転車で来ちゃって」
「も〜。早くジャージに着替えてきなよ」
保健室で事情を話し、ジャージに着替えている間、ホームルームの始まるチャイムが流れた。雨粒が窓に当たる音が大きい。
いつもは朝ごはんを食べながら天気予報をチェックするのに、母親も一言声をかけてくれればいいのに、など後悔の言葉ばかりが浮かんでくる。
「先生」
着替えを終えてカーテンをあけようとした矢先、誰かが保健室に入って来たのが分かった。思わず手を引っ込め、カーテンの中に止まる。
何か聴き慣れた声だと思い、そっとカーテンの隙間から覗いてみると、予期した通り、声の主は宮田だった。
「あ、宮田くん。早いわね」
「・・・担任が、朝一番で持って行けって」
「はーい。どうもね」
宮田が何か1枚の紙切れを養護教諭に渡したのが見えた。そして渡してすぐに帰ろうとした宮田を、養護教諭が呼び止める。
「あ、ちょっとまって」
「・・・なんですか?」
「わかっているとは思うけど、しばらく安静にしててよ」
「・・・・わかってますよ」
宮田が冷たく答えると、養護教諭は困ったように笑って、
「先生の兄も、ボクサーだったの」
思わぬ情報を受けて、宮田はドアノブに掛けた手を止めた。
「昔の話よ。キミとは違って、弱くてね。毎回、散々打たれてたの」
奈々もカーテン越しに思わず息を呑み、緊張した面持ちで次の言葉を待つ。
「働きながらボクシングしてて・・・試合の次の日も、普通に仕事でね。鳶職だったんだけど、試合の翌日に現場から落ちて・・・・」
養護教諭はふっと短いため息をついて、
「まぁ、死にはしなかったけど後遺症が残ってね。今も苦しんでいるわ。だから・・・」
「分かってますよ」
かぶせるように宮田が強い口調で言うと、養護教諭は気圧されてぐっと言葉を飲み込んだ。
「覚悟はしてるんで」
宮田は感情の失せた目つきで養護教諭を一瞥すると、小さく会釈をして保健室を出て行った。ドアがバタンとしまったのを見て、養護教諭は椅子に深く腰掛け、長いため息をついた。
心がざわざわとまとまらないまま迎えた朝の空気はどんよりとしている。空は今にも雨が降りそうな、どんよりとした色をしている。
こんな日はいつもバスで出かけると言うのに、なんだかぼうっとしていたせいか、気がついたら自転車に跨っていて、そしてもうすぐ学校に着くところまで来ていた。
頬にぽつりと落ちてきた雨粒で目を覚まされる。
「わ・・・わわわわ!早くしなきゃ!」
健闘虚しくびしょ濡れになった奈々がクラスのドアを開けると、ポタポタと滴をたらしながら歩く存在に気がついたクラスメイトが次々と駆け寄ってきた。
「ちょ、ちょっと奈々!傘、忘れたのぉ?」
「いやー・・・持ってはいたんだけど、自転車で来ちゃって」
「も〜。早くジャージに着替えてきなよ」
保健室で事情を話し、ジャージに着替えている間、ホームルームの始まるチャイムが流れた。雨粒が窓に当たる音が大きい。
いつもは朝ごはんを食べながら天気予報をチェックするのに、母親も一言声をかけてくれればいいのに、など後悔の言葉ばかりが浮かんでくる。
「先生」
着替えを終えてカーテンをあけようとした矢先、誰かが保健室に入って来たのが分かった。思わず手を引っ込め、カーテンの中に止まる。
何か聴き慣れた声だと思い、そっとカーテンの隙間から覗いてみると、予期した通り、声の主は宮田だった。
「あ、宮田くん。早いわね」
「・・・担任が、朝一番で持って行けって」
「はーい。どうもね」
宮田が何か1枚の紙切れを養護教諭に渡したのが見えた。そして渡してすぐに帰ろうとした宮田を、養護教諭が呼び止める。
「あ、ちょっとまって」
「・・・なんですか?」
「わかっているとは思うけど、しばらく安静にしててよ」
「・・・・わかってますよ」
宮田が冷たく答えると、養護教諭は困ったように笑って、
「先生の兄も、ボクサーだったの」
思わぬ情報を受けて、宮田はドアノブに掛けた手を止めた。
「昔の話よ。キミとは違って、弱くてね。毎回、散々打たれてたの」
奈々もカーテン越しに思わず息を呑み、緊張した面持ちで次の言葉を待つ。
「働きながらボクシングしてて・・・試合の次の日も、普通に仕事でね。鳶職だったんだけど、試合の翌日に現場から落ちて・・・・」
養護教諭はふっと短いため息をついて、
「まぁ、死にはしなかったけど後遺症が残ってね。今も苦しんでいるわ。だから・・・」
「分かってますよ」
かぶせるように宮田が強い口調で言うと、養護教諭は気圧されてぐっと言葉を飲み込んだ。
「覚悟はしてるんで」
宮田は感情の失せた目つきで養護教諭を一瞥すると、小さく会釈をして保健室を出て行った。ドアがバタンとしまったのを見て、養護教諭は椅子に深く腰掛け、長いため息をついた。