22.最愛の恋人
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい、どうだった?宮田くん」
帰宅すると、洗い物をしていたらしい母が手を拭きながら玄関まで迎えにきてくれた。どうやら母親も、宮田の試合を気にしていたらしい。
「もちろん・・・勝ったよ」
「そう〜よかったわねぇ!ご飯出来てるから、さっさと食べちゃいなさい」
「はーい」
2階の自室に鞄を置いて、部屋着に着替えてから1階へ降りて行く。
食卓にはホカホカの白米と食器類が置いてあり、電子レンジの回る音が聞こえている。温かい家庭の食卓の音。
「いただきまぁす」
ご飯を食べながらも無意識に浮かんでくる、今日の出来事。
物々しい雰囲気のエレベーター、野蛮な匂いの会場、強烈なスポットライト、生々しい打撃音、その中で笑みを浮かべる宮田の顔・・・
「宮田くん、KOしたの?」
母親が食後のお茶を差し出して、興味深げに聞いてきた。
「よくわかんないけど・・・相手の人が立てなくて、宮田の勝ちになった」
「それをKOっていうのよ」
「へぇ・・・」
「アンタ、ボクサーの彼女なのに何にも知らないのね?」
「む・・・逆にお母さんがボクシング詳しいの意外だけどな!?」
「ママはあしたのジョー世代だからね」
「あっそ・・・・」
半ば呆れながら、奈々はずずずと煎れたての熱いお茶を少しずつ口に含ませた。試合を見て興奮して帰ってくるかと思ったのに全く持ってテンションの低い娘を不思議に思った母親は、首をひねりながら訪ねてきた。
「なんかずいぶん元気ないわね。なんかあったの?」
「・・・べつに」
「あら〜思春期ィ〜」
「そ、そんなんじゃないから!」
普段は脳天気でどうでもいいことばかり言う母親なのに、時々妙に鋭い。とはいっても、モヤモヤとした気持ちが心の中に巣食っているのは自覚しているが、それがなんなのかわからないので、なんとも言いようがない。
「試合、怖かったの?」
「うーん・・・怖い人はたくさんいたけど・・・」
「宮田くん、殴られた?」
「いや、ほとんど一方的に殴ってた・・・」
「じゃあ、どうしたのよ」
そう聞かれて、頭に浮かぶのはたった一つだけ。
「宮田ね・・・笑ってたの」
「ん?」
「試合の時・・・すごく嬉しそうに、笑ってた」
「へぇ〜」
ボソリと呟いた娘の言葉を聞いたあと、母親は手元のお茶を飲み干して、ガタリと席を立った。
「それは妬けるわねぇ」