2.クリスマス狂想曲 前編
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「父さん、あのさ・・・」
ジムからの帰宅後、寝巻きに着替え、歯を磨きながら宮田がボソリと呟く。
「お前、磨くか話すかどっちかにしたらどうだ」
「うん・・・」
ブクブクと口を濯いで、それからタオルで口元を拭く。
それほど広く無い洗面所に男が2人も佇んで、妙な密度の中、宮田は再度口を開いた。
「前借り・・・したいんだけど」
「小遣いか?」
「・・・・お年玉」
宮田がバツの悪そうに、目線を逸らしながら言う。
普段、金のことで何かを言われることは滅多に無いので、父は少し面食らって、
「どうした?シューズならこないだ買っただろ?」
「・・・」
「何か欲しいもんでもあるのか?もう少し我慢したらどうだ?あと10日もすりゃ正月だ」
「・・・」
宮田は何かを言いたそうにしているが、どうしても言い出せないようで、ずっと父親から目を背け続けている。
「とにかく、もう少し待ってろ」
そうして固まる息子の肩にポンと手を置いて立ち去ろうとした父の背後から、
「10日後じゃ意味ないんだよ」
意味がわからず、思わず振り向いて息子の様子を確認する。
今度はキッとこちらの目をしっかりと見つめていた。
「頼むよ、父さん」
今まで金を貸せだの言われたことのない父親は、何をここまで切羽詰まって物入りなのかサッパリわからなかったが、もういい大人なのだからここは息子の自由にさせるべきかと考え、ふぅと息を吐いて、「待ってなさい」と言った。
そうしてリビングの電話台の引き出しから、白いポチ袋を取り出して見せた。
ポチ袋の上には達筆で“一郎へ”と書かれている。
「ばぁちゃんから預かってた分だ」
「・・・ありがとう」
「正月になったら電話しておけよ」
「わかってるよ」
宮田はポチ袋を受け取るとすぐに階段を上って自室へ戻って行った。階段を上りがてら金額を確認する。0が4つ付いた高額紙幣が1枚入っていた。
祖母が自分のためにくれた小遣いをデート代に流用するのはかなり気が引けるが、アルバイトをしていない自分の財源はこれくらいしか無い。
「・・・24日は日曜日・・か・」
カレンダーを見ながら、日程を確認する。
今年はどうやら、クリスマスイブが日曜日という、カップルには打ってつけの年のようだ。全く気にも留めていなかった。
にわかに沸いた予定に、宮田は何か調子が狂うような感じがした。