13.伝聞系の夏
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宮田の引っ越しから間も無く、夏休みを迎えた。
高校2年生の夏休み。
進学を目指す人は予備校の夏季講習なんかに通い始めたりして、奈々も例にもれずその流行の中に飛び込んでいた。
一方の宮田はどうやら、アルバイトを始めたらしい。
日中はアルバイト、夕方からジムワークと、忙しい日々を送っているようだ。
「ようだ」だの「らしい」だの伝聞系が多いことで察してほしい。
夏休みに入ってから10日余りが経ち、暦はもう8月になっていたが、奈々はその間、宮田とは一度も会えていなかった。
夏季講習は午前中で終わり、午後はフリータイムである。
しかし宮田のアルバイトは早朝8時半から夕方4時半までびっしり、おまけに週6で入れているらしい。一人暮らしともなれば何かと入用なのだろう。
そして今月で17歳になる宮田は、プロテストを目前に控えていた。
「はぁ」
夏なのにどんよりとした雲が立ち込めている。
これはこれからひと雨来そうだと思った矢先、プッと後ろからクラクションを鳴らされて振り向くと、見慣れたバンの窓から、これまた見慣れた人物が顔を出した。
「あ、たっちゃん」
「よぉ。傘持ってるかぁ?」
「ちょうどよかった〜」
「おい、まだ何も言ってねぇぞ?」
何も聞く前に我が物顔で助手席に乗り込んできた奈々を木村は意地悪そうに突き放してみせたが、全く響かないらしい。「ついでに駅前のパン屋寄ってくれない?」なんて偉そうな態度で話しかける奈々に、木村は「配達中だぞ」と呆れた声で項垂れる。
「あ、もう降ってきた」
ポツポツとフロントガラスに水滴が落ちてきたと思ったのも束の間、すぐにバケツをひっくり返したような大雨が降り注ぎ、目の前のワイパーが全力で動き始めた。
「お前ラッキーだな、本当に」
「たっちゃん、いつも良いところで来てくれるんだもん」
その一言で何かを思い出したのか、木村が「そうだ」と目を見開いて、
「今年の花火大会、お前来れるか?」
「ん?ああ、例の鴨川ジムの?呼んでくれるの?」
「ああ、今度の土曜日だけどよ」
「うん、空いてるよ」
鴨川ジムは夏に恒例の花火大会を実施している。
去年、まだ宮田と付き合う前に木村に招待されて参加したのだが、その時の帰りに宮田に家まで送ってもらったことが、懐かしく思い出される。
ところが、いつもは「宮田とはどうなんだ?」とか「最近どうよ?」なんて根掘り葉掘り聞いてくる木村が、今日になってこの流れで、特に宮田のことを聞いてこないのもちょっと不自然な気がした。
それゆえ、ちょっと確かめるように自らが話題を振ってみる。
「懐かしいね。去年は宮田もいたよね」
「ああ・・・そうだな。さすがに今年は呼べねぇけどな」
「え?なんで?」
「だって・・・ジム移籍したろ。アイツはもう仲間じゃねえからな」
男同士の友情というものは、どうやら女同士のそれとは少し違うらしい。
“アイツはもう仲間じゃない”
その一言が、男同士ではどんな意味を持つのか奈々は到底わからないが、誰よりも長く鴨川ジムにいた宮田なのに、あれほど鴨川ジムに愛着があったはずなのに、と思うと・・・とても悲しくて、寂しい思いがこみ上げてくる。
「そっかぁ」
それきり、どちらからも宮田の話をすることはなかった。
ラジオから流れてくる流行の曲や、最近見たテレビの話題などで一頻り盛り上がった後、奈々の家の前にバンが着いた頃にはちょうど雨が降り止んでいた。
「じゃあ、土曜日な」
「うん、わかった」
土砂降りの後も、湿ってべとついた空気は相変わらず、体にまとわりついて離れない。
高校2年生の夏休み。
進学を目指す人は予備校の夏季講習なんかに通い始めたりして、奈々も例にもれずその流行の中に飛び込んでいた。
一方の宮田はどうやら、アルバイトを始めたらしい。
日中はアルバイト、夕方からジムワークと、忙しい日々を送っているようだ。
「ようだ」だの「らしい」だの伝聞系が多いことで察してほしい。
夏休みに入ってから10日余りが経ち、暦はもう8月になっていたが、奈々はその間、宮田とは一度も会えていなかった。
夏季講習は午前中で終わり、午後はフリータイムである。
しかし宮田のアルバイトは早朝8時半から夕方4時半までびっしり、おまけに週6で入れているらしい。一人暮らしともなれば何かと入用なのだろう。
そして今月で17歳になる宮田は、プロテストを目前に控えていた。
「はぁ」
夏なのにどんよりとした雲が立ち込めている。
これはこれからひと雨来そうだと思った矢先、プッと後ろからクラクションを鳴らされて振り向くと、見慣れたバンの窓から、これまた見慣れた人物が顔を出した。
「あ、たっちゃん」
「よぉ。傘持ってるかぁ?」
「ちょうどよかった〜」
「おい、まだ何も言ってねぇぞ?」
何も聞く前に我が物顔で助手席に乗り込んできた奈々を木村は意地悪そうに突き放してみせたが、全く響かないらしい。「ついでに駅前のパン屋寄ってくれない?」なんて偉そうな態度で話しかける奈々に、木村は「配達中だぞ」と呆れた声で項垂れる。
「あ、もう降ってきた」
ポツポツとフロントガラスに水滴が落ちてきたと思ったのも束の間、すぐにバケツをひっくり返したような大雨が降り注ぎ、目の前のワイパーが全力で動き始めた。
「お前ラッキーだな、本当に」
「たっちゃん、いつも良いところで来てくれるんだもん」
その一言で何かを思い出したのか、木村が「そうだ」と目を見開いて、
「今年の花火大会、お前来れるか?」
「ん?ああ、例の鴨川ジムの?呼んでくれるの?」
「ああ、今度の土曜日だけどよ」
「うん、空いてるよ」
鴨川ジムは夏に恒例の花火大会を実施している。
去年、まだ宮田と付き合う前に木村に招待されて参加したのだが、その時の帰りに宮田に家まで送ってもらったことが、懐かしく思い出される。
ところが、いつもは「宮田とはどうなんだ?」とか「最近どうよ?」なんて根掘り葉掘り聞いてくる木村が、今日になってこの流れで、特に宮田のことを聞いてこないのもちょっと不自然な気がした。
それゆえ、ちょっと確かめるように自らが話題を振ってみる。
「懐かしいね。去年は宮田もいたよね」
「ああ・・・そうだな。さすがに今年は呼べねぇけどな」
「え?なんで?」
「だって・・・ジム移籍したろ。アイツはもう仲間じゃねえからな」
男同士の友情というものは、どうやら女同士のそれとは少し違うらしい。
“アイツはもう仲間じゃない”
その一言が、男同士ではどんな意味を持つのか奈々は到底わからないが、誰よりも長く鴨川ジムにいた宮田なのに、あれほど鴨川ジムに愛着があったはずなのに、と思うと・・・とても悲しくて、寂しい思いがこみ上げてくる。
「そっかぁ」
それきり、どちらからも宮田の話をすることはなかった。
ラジオから流れてくる流行の曲や、最近見たテレビの話題などで一頻り盛り上がった後、奈々の家の前にバンが着いた頃にはちょうど雨が降り止んでいた。
「じゃあ、土曜日な」
「うん、わかった」
土砂降りの後も、湿ってべとついた空気は相変わらず、体にまとわりついて離れない。