12.手伝えよ
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「違うジムに移籍する。だから、その近くに引っ越すことにした」
「・・・な、な・・なんで・・?」
木村情報になるが、宮田は幼い頃から、それこそ父親が所属していたことから、ずっとずっと鴨川ジムでボクシングをしてきたと聞いていた。鴨川ジムはいわば、宮田の人生のほとんどを過ごしてきた、第二の家のような存在だ。
そのジムを辞めて、別のジムに行く・・?
どうしてそんなことになったのか、宮田が何を考えているのか、さっぱりわからない。
奈々があんまり驚いて固まるので、宮田は少し疑問に思って問いかける。
「木村さんから、聞いてないのか」
「・・・・な、何を?」
宮田は一歩との対戦について、てっきり木村から奈々に話が行っているかと思っていた。だが、予想とは違ってこの2人の間での情報交換はなかったらしい。
木村から詳しい話が行っていたらそれはそれで早かったのに、と宮田は複雑な心境ながらも、最低限の報告をしなければならない義務感で続けた。
「決着をつけたいヤツが・・・ジムにいるんだ」
宮田がボソリと語り出した相手を、奈々はすぐに思い出すことができなかった。
「同じジムからデビューすると、プロとしては対戦ができなくなる・・・だからジムを出た」
宮田の一字一句がなかなか入ってこない。
同じジムからデビュー?プロとして対戦?
よくわからないことだらけだ。
だが、こうして聞いている間に、うっすらと昔木村に聞いたことを思い出してきた。
“ド素人に苦戦させられてよ。で、来月再試合よ”
「それって・・あのド素人の人?宮田、まさか負けたの!?」
大きめの声で奈々があっけらかんと言い放つと、宮田は酷く面白くなさそうな顔をして黙った。
デリケートな話題だったにも関わらず、相変わらず思ったことを何の気なしに言い放ってしまった自分を恥じながら、奈々は「ご、ごめん」と小さく謝罪する。
「とりあえず、それだけ言っておこうと思って」
「う、うん・・・」
「じゃあな」
報告をするだけしてアッサリと去ろうとする宮田を捕まえようと、考えるより先に手が伸びた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「・・なんだよ」
「引っ越すって、ど、どこ?」
不安そうな奈々の顔を見て、宮田は再度、階段に腰を下ろす。
ちらりと横目で見ると、奈々は潤んだ瞳でずっとこちらを見つめていた。
全く何がそんなに不安なのかと、宮田は少し意地悪すらしたい気持ちになった。
「お前、日曜日暇だろ?」
「・・・暇ですけど」
「じゃあ手伝えよ」
相変わらずどこの王様かと思うほど横柄な態度でモノを頼んでくる。
一度、お父さんからモノの頼み方を教わった方がいいのではないか、と奈々はふてくされながらも、ノーとは言えない自分を恨んだ。