11.何もない
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子供と大人の境目で、一番わかりやすいのは成人式。
だけど、その前に私たちは、子供から少し飛び出て来てしまって、単純なことに笑い転げていた日々は、気づいたらずっと遠く向こうに置き去りになっていた。
何も知らなかった頃に戻りたい、なんて言うのはまだ早いかなぁ?
振り返って懐かしく眺めるには、子供時代が近すぎて。
どっちつかずで、前と後ろのどちらを向いても、居場所がない気がする。
「あ、それって新しく出来た店の?」
奈々がフーコのカバンにぶら下がったぬいぐるみ型のマスコットを見て声をかける。
「ふふふ。買っちゃった」
「え〜いいなぁ!何?こないだのデートで?」
ニヤニヤと含み笑いをしながら答えるフーコに、トモが嬉しそうに尋ねると、その笑みはますます丸くなっていった。
「ダーリン、今日も学校まで迎えに来てくれんだぁ」
「聞いてないし別に」
「ふふふ。妬かない妬かない」
バカな話ばかりして盛り上がっていた友人たちに恋人ができて(と言っても、自分がその筆頭だったから文句は言えないが)、気がついたら会話の大半が恋愛がらみ。
最初は微笑ましく聞けていた話が、最近はちょっと、胸にチクチクとした違和感を持つようになってしまった。
「奈々は最近デートしてるの?」
「え?・・・う、うーん」
あまり聞かれたくなかった話題に対し、鈍い反射神経が率直なリアクションを返すと、フーコが心配そうに顔を覗き込んで言う。
「最近一緒にいるとこ全然見てないけど、大丈夫なの?」
「まぁ・・ほら、クラスも変わったし」
「そうだけどぉ・・・週末とか会えてるの?電話してる?」
「う、うーん・・・ま、まぁ」
決して何かを聞いて欲しいわけではないのに、相手が何かを聴きたくなるような返答をしている自分がいる。
嘘をつけるほどの余裕がないのか、それとも本当は、根掘り葉掘り聞いてもらいたいのか。
フーコたちがますます心配そうな顔つきになり、次の言葉を選んで沈黙した瞬間、奈々はハッと被り忘れた仮面を手に取るようにして我に返り、やや大きめの声でおどけてみせた。
「いや!大丈夫だからね!?」
「・・・何その滑稽な動き。ごまかそうったって無理よ?」
「本当だって・・・」
フーコがさらに畳みかけてこようとした時、奈々に逃げ場をもたらすようにチャイムがなり、皆やや渋々といった表情で各自席に戻っていった。