結局下ろされた場所は、図書館裏の公園のベンチ。
日が少し暮れかかり、人もほとんどいなくなった公園には、ただただカラスの泣き声と、時々車の走る音が聞こえるだけだった。


「お前・・・痩せたな」
「・・・どうも」


宮田が腕を回しながら呟くと、奈々は複雑そうに小さな声で答えた。


「食ってねぇのかよ」
「・・・食べてるよ」


ベンチで隣同士に座りながらも、奈々は宮田に背を向けるような形で、決して顔を合わせようとしない。

宮田は面倒臭そうに頭を掻き上げて、それから


「こないだ、アイツに何言われた」




思わぬ一言に、奈々は少し目を見開いて、


「アイツって？」
「・・・・お前の兄貴」


木村のことを言っているのはわかったが、だとしてなぜこのタイミングで彼の話が出てくるのか不思議に思っていると、


「別に何も・・」
「お前、本当は・・・」



宮田はそう言うと、足元の枝を踏みつけた。
バキ・・と鈍い音が響く。


「・・・何？」


宮田が何を言っているのかさっぱりわからず聞き返す奈々に対し、宮田は苛立ちのあまり立ち上がり、拳をぐっと握り締めて続けた。


「・・・オレはアイツじゃないからな」


立ち上がった宮田の背後に夕焼けの赤い光が差し込んで、逆光のせいで表情が全然見えない。
無表情から放たれた一言は、奈々の想像を超えて深くまで刺さり込んだらしい。


「し、知ってるよ・・・第一、全然違うじゃん」
「そういう意味じゃねぇよ」
「じゃあどういう・・・」


奈々が問い詰めると、宮田はそれきり黙って答えない。
長閑な公園に不釣り合いの、緊張した空気が続く。