その日の夜。


「奈々、宮田くんから電話よぉ」


母親が１階から子機を持って上がってきた。


「最近見ないじゃない宮田くん。またウチに来てよって伝えておいてよぉ。ママ、ハンサム宮田くんの顔、また見たいわ〜」
「はいはいはいはい、もういいでしょ、貸してよ」


母親から渡された子機の保留ボタンは点滅していなかった。

このアホみたいな会話が全部筒抜けになっていたようで、奈々はガックリと項垂れる。母はいつになったら“保留”の機能を覚えてくれるのだろうか。


「・・もしもし」
「オレだけど」


会話を聞いていたはずの宮田は、まるで何も聞かなかったかのようなテンションで淡々と話す。


「どうしたの？」


学校でも全然会えていなかったので、会話自体がかなり久しぶりのような気がした。
それに宮田から電話をかけてくること自体がかなり珍しい。

何か急な用事でもあったのかと思いきや、返ってきたのは意外な一言だった。


「お前木村さんに何言ったんだよ」


「・・・え？」
「めんどくせぇこと散々言われたんだけど」
「べ、別に何も・・・？」
「じゃあ何なんだよ」
「し、知らないよ！確かに今日、たっちゃんとすれ違ったけど・・・・っていうか」


一方的に攻められている形勢が面白くなく、奈々もついつい反撃に出る。


「私、聞いてないこといっぱいあったんだけど！？」
「何がだよ」
「その・・・なんか新しい人と試合したとか、また試合するとかなんとか」
「そんなの、いちいち言うことかよ」


宮田の言葉がズキンと胸に突き刺さる。
決して間違ってはいないけれど、十分に殺傷能力のある一言だ。


「そ、そうだけど・・・・」
「とにかく。もう木村さんには何も言うなよ。めんどくせえ」
「別に、単に世間話しただけじゃん！」
「とにかく変なことを言うな。わかったな」
「な、何よ偉そうに・・・」
「じゃあな」


プツっと一方的に切れた電話。
ツー・ツーと間抜けな電波音だけが鼓膜を通り抜けていく。


情報量が多すぎて処理が追いつかない。



「な、何よアイツ・・・・バカ・・・バカ！！人の気も知らないでぇええ！！」


子機をベッドに投げ捨て、さらに自らの体すらベッドに投げ捨てるように倒れ込み、必死に枕を叩いてみせた。