52.もう一度
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学校のチャイムが鳴り、ガタガタと机の動く音やバサバサと教科書を畳む音が一斉に響き渡った。
それと同時にガラリと各方面でドアが開き、中から威勢の良い下級生たちが次々に廊下に溢れ出てくる。
次の大切な言葉を言うタイミングで、この雑多な雰囲気。
全くもって時間配分を間違えたと言うか、あまりにも二人の世界に入りすぎていたと言うか、何と言う間の悪さ。
次の言葉へのためらいを見せた一瞬、宮田は意地悪そうに「・・・何?」と言って、逃げるそぶりを見せた奈々の手をギュッと押し付けた。
「・・・・今、言えるわけないじゃん」
「なんでだよ」
「・・・みんな居るし」
顔を真っ赤にした奈々が拗ねるように言うと、宮田は重ねた手をそのまま引っ張り上げて、踊り場の階段のさらに上まで登って、
「ここなら見えないだろ」
と涼しい顔をして呟いた。
「で?」
涼しい顔をして入るが、とんでもなく強引な誘導だ。
奈々はとうとう観念して、宮田の制服にしがみついて、
「私は・・・宮田が好き・・・大好き。もう次は絶対絶対、絶対に迷わない。だから・・・」
下に向けていた顔を一旦深呼吸で整えてから、グッと上に向けて、真っ直ぐ宮田の目を見る。
宮田の大きな瞳の中に、小さな自分を見つけた。
「もう一度私と、付き合ってくれませんか」
その沈黙は何千時間にも感じられたし、ほんの一瞬のようでもあった。
宮田はふぅと息を吐いて目を逸らし、それから両手を背中に回してしっかりと奈々を抱きしめた。
1年ぶりの抱擁は、昔より顔と心臓の位置が近くなったようで、宮田の逸る脈拍がしっかりと聞こえた。
「随分待たせてくれたな」
宮田がボソリと、少し恨めしそうに呟いた。
少しハスキーな低音が耳の裏で振動し、うなじあたりを刺激してくる。
奈々も両手を背中に回し、制服をぎゅっと握りしめた。
懐かしい宮田の匂いに包まれて、勝手に涙が溢れてくる。
「ごめんなさい・・・でした」
「許さねぇ」
「・・・ごめんなさい」
「謝って済む問題かよ」
「ううう」
意地悪なセリフばかりを放つ宮田に向ける顔もなく、奈々はただただ胸に顔を埋めるしかなかった。
トントントンと階段を上がってくる音と同時に「あ」というバツの悪そうな男女の声が聞こえてきた。
どうやらこの場所は後輩たちも逢瀬の場として受け継がれているようだ。
パタパタと遠ざかっていく足音を聞いてから、宮田は抱きしめた腕を緩めて少し体を離し、奈々を見つめた。
「知ってるか?」
「・・・何を?」
「ボクサーってのは、諦めが悪いんだぜ」
宮田の腕の中で、奈々はハッと思い出し、ぐいっと宮田の学生服を引っ張るようにして、
「そのセリフ、75年作《青い炎》で主人公のスコットがライバルのジョンに呟いた名台詞!“スナイパーってのは諦めが悪いんだぜ”・・・だね!?」
水を得た魚のようにキラキラと目を輝かせて映画を語る奈々を前に、宮田は珍しく口角を上げて苦笑いした。
「ご名答」
「でもさ、アレ原文は"スナイパーはしつこい”って感じだよね。だから諦めが悪いっていう訳はちょっとキレイすぎない?スコットの執着心の強さがいまいち表現できてないというか」
「でもスコットはイギリス人だし、キザで粋な言い回しの方がいいと判断したんじゃないか?和訳って確か山田一郎だろ?だから誤訳というよりは明らかな意図があったとオレは思うぜ」
「言われてみれば確かに。山田一郎ってちょっとズレてるけど心に残る和訳するんだよね」
「そうだな。それに《ハリケーン》でも・・・・・
・・・・
色気も何もないオタク話の最中でも、二人の手はしっかりと握られていた。
それと同時にガラリと各方面でドアが開き、中から威勢の良い下級生たちが次々に廊下に溢れ出てくる。
次の大切な言葉を言うタイミングで、この雑多な雰囲気。
全くもって時間配分を間違えたと言うか、あまりにも二人の世界に入りすぎていたと言うか、何と言う間の悪さ。
次の言葉へのためらいを見せた一瞬、宮田は意地悪そうに「・・・何?」と言って、逃げるそぶりを見せた奈々の手をギュッと押し付けた。
「・・・・今、言えるわけないじゃん」
「なんでだよ」
「・・・みんな居るし」
顔を真っ赤にした奈々が拗ねるように言うと、宮田は重ねた手をそのまま引っ張り上げて、踊り場の階段のさらに上まで登って、
「ここなら見えないだろ」
と涼しい顔をして呟いた。
「で?」
涼しい顔をして入るが、とんでもなく強引な誘導だ。
奈々はとうとう観念して、宮田の制服にしがみついて、
「私は・・・宮田が好き・・・大好き。もう次は絶対絶対、絶対に迷わない。だから・・・」
下に向けていた顔を一旦深呼吸で整えてから、グッと上に向けて、真っ直ぐ宮田の目を見る。
宮田の大きな瞳の中に、小さな自分を見つけた。
「もう一度私と、付き合ってくれませんか」
その沈黙は何千時間にも感じられたし、ほんの一瞬のようでもあった。
宮田はふぅと息を吐いて目を逸らし、それから両手を背中に回してしっかりと奈々を抱きしめた。
1年ぶりの抱擁は、昔より顔と心臓の位置が近くなったようで、宮田の逸る脈拍がしっかりと聞こえた。
「随分待たせてくれたな」
宮田がボソリと、少し恨めしそうに呟いた。
少しハスキーな低音が耳の裏で振動し、うなじあたりを刺激してくる。
奈々も両手を背中に回し、制服をぎゅっと握りしめた。
懐かしい宮田の匂いに包まれて、勝手に涙が溢れてくる。
「ごめんなさい・・・でした」
「許さねぇ」
「・・・ごめんなさい」
「謝って済む問題かよ」
「ううう」
意地悪なセリフばかりを放つ宮田に向ける顔もなく、奈々はただただ胸に顔を埋めるしかなかった。
トントントンと階段を上がってくる音と同時に「あ」というバツの悪そうな男女の声が聞こえてきた。
どうやらこの場所は後輩たちも逢瀬の場として受け継がれているようだ。
パタパタと遠ざかっていく足音を聞いてから、宮田は抱きしめた腕を緩めて少し体を離し、奈々を見つめた。
「知ってるか?」
「・・・何を?」
「ボクサーってのは、諦めが悪いんだぜ」
宮田の腕の中で、奈々はハッと思い出し、ぐいっと宮田の学生服を引っ張るようにして、
「そのセリフ、75年作《青い炎》で主人公のスコットがライバルのジョンに呟いた名台詞!“スナイパーってのは諦めが悪いんだぜ”・・・だね!?」
水を得た魚のようにキラキラと目を輝かせて映画を語る奈々を前に、宮田は珍しく口角を上げて苦笑いした。
「ご名答」
「でもさ、アレ原文は"スナイパーはしつこい”って感じだよね。だから諦めが悪いっていう訳はちょっとキレイすぎない?スコットの執着心の強さがいまいち表現できてないというか」
「でもスコットはイギリス人だし、キザで粋な言い回しの方がいいと判断したんじゃないか?和訳って確か山田一郎だろ?だから誤訳というよりは明らかな意図があったとオレは思うぜ」
「言われてみれば確かに。山田一郎ってちょっとズレてるけど心に残る和訳するんだよね」
「そうだな。それに《ハリケーン》でも・・・・・
・・・・
色気も何もないオタク話の最中でも、二人の手はしっかりと握られていた。