52.もう一度
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合格発表日の夜は両親が寿司を頼んで盛大にお祝いしてくれた。
その翌日、学校の先生にも合格の報告をしようと、奈々は朝から制服に身を包んで家を出た。
制服を着られるのもあと2週間だ。
道中、公衆電話から宮田の家へ電話をかける。
思った通り留守電になった。バイトに行っているか、寝ているのだろう。
奈々は自分が大学に合格したことと、今日は学校へ行っていることを告げて電話を切った。
「先生、サクラ咲きました!」
「おぉ〜。よかったなぁ。第一志望だったもんなぁ」
「はいっ」
担任はうれしそうに目を細めて、手を叩いて喜んでくれた。
周りにいた先生方もパチパチと拍手をして祝福してくれる。
なんだかとても照れ臭いが、暖かい気持ちになった。
「あとは卒業式まで問題起こすなよ。まぁお前なら大丈夫だろうけどな」
「もちろんですよぉ」
担任との談笑を終え職員室を出ると、ドアの向かいで宮田が壁に背を預けて立っているのが見えた。
「み、宮田!?どうしたの」
久々にみる学生服姿の宮田。
なんだかちょっと窮屈そうに見えるのは、宮田の背がこの1年でグンと伸びたからだろうか。
「今朝、電話もらったから」
「あ、うん・・・今日バイトはないの?」
「ああ。もう帰るのか?」
「うん」
「じゃあ、行くぞ」
どこへ?と思いながらも、強引な宮田の背中を追う。
そして、二人がいつも逢瀬を重ねていた、あの階段の踊り場までやってきた。
3年生は皆、受験組は自宅、就職組はバイトで登校していないが、1〜2年生は普通に授業中だ。
踊り場のすぐ下は2年生の教室。
話し声が教室の中まで届くことはないが、なるべく声や音を立てないようにしなければ。
宮田はいつもの位置に腰を下ろし、奈々もその横に座った。
二人の方の間には、拳1つ分くらいの距離がある。
「あ・・あの。電話でも言ったけど・・・合格しました」
「ああ・・・おめでとう」
「うん」
奈々は宮田が次に何を言うか待っていたが、宮田はそれっきり黙って何か遠くの方を眺めたままだった。
「なんか・・・・懐かしい」
奈々がボソリと呟くと、宮田はその声の方に顔を向けた。そのまま奈々は続けて、
「いつもここで泣いては・・・宮田に慰められてたな」
「・・・そうだな」
何の音もしない静かな踊り場。
いつも二人でここにいる時は、だいたい昼休みか何かで騒がしかったから、何だか妙な心持ちだ。
「宮田」
「なんだよ」
「私ね・・・今すごく宮田のボクシングのこと応援しているんだよ」
奈々は宮田の拳にそっと両手を重ね、それをじっと眺めながらつぶやいた。
宮田はその両手の上に、自分のもう一つの手のひらを重ね、「ありがとな」と答える。
「一人の時は・・・好きな映画を見たり本を読んだり・・・友達と遊びに行ったり・・・最近は受験勉強も頑張ったんだ・・・」
奈々はぎゅっと両手に力を込めて、すぅっと大きく息を吸い込み、それから顔を上げて宮田の目を見つめた。
「宮田が海外に行っても・・・きっと私は大丈夫だと思う・・だから、私・・・」
次の言葉を発しようとした瞬間だった。