51.あるべきところ
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定期試験も無事に終わって、2学期の終業式。
世間はすでにクリスマスムードで染まっていて、受験を一足先に終えた組は浮かれモードで足取りも軽いようだ。
一方で、年明けには共通一次試験が待ち受けている奈々にはそんな余裕はなかった。幸いにして今年に入ってからの模試は順調、先の定期試験は直前に色々あって結果が心配だったが、蓋を開けてみればいつも通りと言ったところだった。
失恋の痛手は、それほど実生活に影響を及ぼさなかったらしい。
「失恋・・・って、そんな資格もないってのに」
自分の考えにツッコミを入れて呆れまじりにため息をつく。
学校からの帰路、今日は一段と寒く、自転車を漕いでいると手足が冷えてたまらない。早く家に着きたい一心と、ちょっとでも暖まりたい一心で、ペダルを漕ぐスピートを強める。
さぁ、もうすぐ自宅だというところで、家の前に誰かが立っているのが見えた。思わず急ブレーキをかける。
キキィッと耳を刺す強いブレーキ音が住宅街の壁に弾かれ大きく響き渡ると、玄関の前の人物が音の発生源に顔を向けた。
「み、宮田・・・・?何してるの?」
宮田は門の壁にもたれかかって、腕組みをして奈々の帰りをしばらく待っていたようだった。
奈々が自宅の前に自転車を停めると、宮田は歩みを寄せて、
「随分遅かったな」
「え?あ、ああ・・・トモと教室で喋ってたから・・・ってか、え?何?」
「忘れもんを取りに来た」
「わ、忘れもん?」
動揺して目を何度も瞬きさせている奈々を尻目に、宮田はいつものクールな顔を崩さないでいる。
「入っていいか?」
「え?い、今!?別にいいけど・・・」
強引な宮田のお願いに気圧される形で、奈々は玄関のドアを開けた。
ーーーーー
「お邪魔します」
「あっらぁ〜、宮田くん!?本当に久しぶりね」
「・・・・どうも」
「まさか、ヨリを戻したのかしら?」
母親があっけらかんと笑いながら言う。
本当にこの人はデリカシーというお茶を一度煎じて飲んだ方がいいと思う。
宮田がどんな反応をしているか怖くて顔を見ることができない。
複雑な顔をしていると思われたくなくて、奈々は同じような茶化したテンションで言葉を返した。
「違いますぅ。忘れ物を取りに来たんですぅ」
「あらそうなの。残念だったわね〜」
その言い方が面白くなく、奈々は母親の背中をぐいぐいと押して、「あっちへ行って」とリビングに押し込めた。
ーーーーーーー
宮田が奈々の部屋にいるなんて、1年以上ぶりだ。
あの頃とは家具の配置も、ベッドのシーツも多少変わっている。
だから宮田が来ても、懐かしさというよりは、なんだか変な新鮮さの方が際立って見えた。
「で、忘れ物って何?」
「・・・・サントラ」
「え?」
「誕生日にもらったやつ」
あぁ、あれかと奈々はすぐに思い当たり、CDラックから1枚取り出すと、部屋で突っ立ったままの宮田に差し出した。
「はい、これ」
「サンキュ」
「実はもう自分のものにして聞きまくってたから、新品とは言えないんだけど・・・」
宮田はCDをジャケットのポケットに仕舞い込む最中で、奈々が少しばつの悪そうに呟くと、宮田はフッと笑って、
「ダビングするか?」
「ううん、もう歌えるくらい聞いたからいいよ」
奈々から"サントラを歌える”というマニアックな回答が返ってきて、宮田はまたも小さく笑った。
「ところで、どうして急にCDのこと思い出したの?もうすっかり忘れたんだと思ってた」
奈々がそう言うと、宮田はポケットから両手を出して、グッと軽く拳を握りしめながら答えた。
「卒業したら、しばらく日本を離れることにした」
「・・・え?」
「武者修行・・・とでも言えばいいのかわからねぇけど・・・そのお供にしようと思ってな」
「か、海外に行くの?どこ?試合するってこと?」
驚きのあまり矢継ぎ早に質問を繰り出す奈々を前に、宮田は至極冷静に、
「タイとか、フィリピンとか、アジア圏を回って試合をしてくるつもりだ。OPBFタイトルを目指してな」
奈々にはOPBFが一体何かはさっぱりわからなかったが、とりあえず海外で試合をしてキャリアを積んでいくのだろうということはかろうじて理解できた。そのお供にCDを思い出してくれたのは光栄なことだが、奈々には一つ懸念があった。
「その・・・海外に行くこと・・・蓼丸さんは知ってるの?」
「・・・知らないけど」
「え・・・っえええ!?」
「なんだよ」
宮田は、そういえばまだ蓼丸についての誤解が解けていなかったと思い出したものの、奈々の反応が予想以上に面白いものだから、ついつい意地悪心でしばらく反応を伺いたくなり、知らぬふりを決め込んでいる。
「な、なんで言わないの?」
宮田の無表情を前に、訳がわからない奈々は冬なのに妙な汗をかいている自分に気がつきながら、しどろもどろになって追求する。すると宮田はこれまたしれっとした顔で、「言う必要ないだろ」と答える。ますます訳がわからなくなった奈々は、
「え・・・?つ、付き合ってるんじゃないの!?」
定期試験も無事に終わって、2学期の終業式。
世間はすでにクリスマスムードで染まっていて、受験を一足先に終えた組は浮かれモードで足取りも軽いようだ。
一方で、年明けには共通一次試験が待ち受けている奈々にはそんな余裕はなかった。幸いにして今年に入ってからの模試は順調、先の定期試験は直前に色々あって結果が心配だったが、蓋を開けてみればいつも通りと言ったところだった。
失恋の痛手は、それほど実生活に影響を及ぼさなかったらしい。
「失恋・・・って、そんな資格もないってのに」
自分の考えにツッコミを入れて呆れまじりにため息をつく。
学校からの帰路、今日は一段と寒く、自転車を漕いでいると手足が冷えてたまらない。早く家に着きたい一心と、ちょっとでも暖まりたい一心で、ペダルを漕ぐスピートを強める。
さぁ、もうすぐ自宅だというところで、家の前に誰かが立っているのが見えた。思わず急ブレーキをかける。
キキィッと耳を刺す強いブレーキ音が住宅街の壁に弾かれ大きく響き渡ると、玄関の前の人物が音の発生源に顔を向けた。
「み、宮田・・・・?何してるの?」
宮田は門の壁にもたれかかって、腕組みをして奈々の帰りをしばらく待っていたようだった。
奈々が自宅の前に自転車を停めると、宮田は歩みを寄せて、
「随分遅かったな」
「え?あ、ああ・・・トモと教室で喋ってたから・・・ってか、え?何?」
「忘れもんを取りに来た」
「わ、忘れもん?」
動揺して目を何度も瞬きさせている奈々を尻目に、宮田はいつものクールな顔を崩さないでいる。
「入っていいか?」
「え?い、今!?別にいいけど・・・」
強引な宮田のお願いに気圧される形で、奈々は玄関のドアを開けた。
ーーーーー
「お邪魔します」
「あっらぁ〜、宮田くん!?本当に久しぶりね」
「・・・・どうも」
「まさか、ヨリを戻したのかしら?」
母親があっけらかんと笑いながら言う。
本当にこの人はデリカシーというお茶を一度煎じて飲んだ方がいいと思う。
宮田がどんな反応をしているか怖くて顔を見ることができない。
複雑な顔をしていると思われたくなくて、奈々は同じような茶化したテンションで言葉を返した。
「違いますぅ。忘れ物を取りに来たんですぅ」
「あらそうなの。残念だったわね〜」
その言い方が面白くなく、奈々は母親の背中をぐいぐいと押して、「あっちへ行って」とリビングに押し込めた。
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宮田が奈々の部屋にいるなんて、1年以上ぶりだ。
あの頃とは家具の配置も、ベッドのシーツも多少変わっている。
だから宮田が来ても、懐かしさというよりは、なんだか変な新鮮さの方が際立って見えた。
「で、忘れ物って何?」
「・・・・サントラ」
「え?」
「誕生日にもらったやつ」
あぁ、あれかと奈々はすぐに思い当たり、CDラックから1枚取り出すと、部屋で突っ立ったままの宮田に差し出した。
「はい、これ」
「サンキュ」
「実はもう自分のものにして聞きまくってたから、新品とは言えないんだけど・・・」
宮田はCDをジャケットのポケットに仕舞い込む最中で、奈々が少しばつの悪そうに呟くと、宮田はフッと笑って、
「ダビングするか?」
「ううん、もう歌えるくらい聞いたからいいよ」
奈々から"サントラを歌える”というマニアックな回答が返ってきて、宮田はまたも小さく笑った。
「ところで、どうして急にCDのこと思い出したの?もうすっかり忘れたんだと思ってた」
奈々がそう言うと、宮田はポケットから両手を出して、グッと軽く拳を握りしめながら答えた。
「卒業したら、しばらく日本を離れることにした」
「・・・え?」
「武者修行・・・とでも言えばいいのかわからねぇけど・・・そのお供にしようと思ってな」
「か、海外に行くの?どこ?試合するってこと?」
驚きのあまり矢継ぎ早に質問を繰り出す奈々を前に、宮田は至極冷静に、
「タイとか、フィリピンとか、アジア圏を回って試合をしてくるつもりだ。OPBFタイトルを目指してな」
奈々にはOPBFが一体何かはさっぱりわからなかったが、とりあえず海外で試合をしてキャリアを積んでいくのだろうということはかろうじて理解できた。そのお供にCDを思い出してくれたのは光栄なことだが、奈々には一つ懸念があった。
「その・・・海外に行くこと・・・蓼丸さんは知ってるの?」
「・・・知らないけど」
「え・・・っえええ!?」
「なんだよ」
宮田は、そういえばまだ蓼丸についての誤解が解けていなかったと思い出したものの、奈々の反応が予想以上に面白いものだから、ついつい意地悪心でしばらく反応を伺いたくなり、知らぬふりを決め込んでいる。
「な、なんで言わないの?」
宮田の無表情を前に、訳がわからない奈々は冬なのに妙な汗をかいている自分に気がつきながら、しどろもどろになって追求する。すると宮田はこれまたしれっとした顔で、「言う必要ないだろ」と答える。ますます訳がわからなくなった奈々は、
「え・・・?つ、付き合ってるんじゃないの!?」