50.助言
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「で、話って言うのはなんだ」
食べ終わった二人分のカレー皿をキッチンへ下げる息子の背中目掛けて、父親がなんとも呑気に呟くものだから、宮田は小さなため息をつきながら、
「進路のことだよ」
「・・・就職先、見つかったのか」
とうとう息子も真っ当な道を進む決心がついたかと、驚き半分、嬉しさ半分の気持ちが声色にも反映されたらしい。
見当違いの返事を聞いて、宮田はキッチンから台拭きをテーブルに投げた。父親はそのぶっきらぼうな反応から、どうも回答が間違っているらしいことを知る。
「海外・・・・」
「ん?」
父親は、腕を組みながらキッチンにもたれかかったままの息子の近くへ台拭きを持っていって、その様子を伺う。
「海外で・・・OPBF圏内を回って、ランキング狩りがしたいんだ」
何を言い出したかと思うと、真っ当な道どころか純度100%のボクシング道を打ち出してきた息子に、父親は当然反発する。
「何の為に?」
「アイツと戦るためさ」
「アイツって・・・幕之内か?もういいだろう、何度も言っているが、減量も厳しくなってきたし、階級を変えて日本でじっくりと・・」
「時間がないんだよ、父さん!」
宮田は組んでいた腕を外して拳を掌に打ち付け、湧き上がる感情を抑えられずに声を荒げた。
「アイツと戦るまで、階級を変える気はない。アイツはいずれ、日本ランキングに上がってくるだろう。その時オレがOPBFタイトルを獲っていれば、戦る確率はかなり高くなるはずだ。その為には回り道なんてしてられないんだよ」
「し、しかし・・・」
「頼むよ、父さん」
「む、むう」
いずれ息子を大学にも行かせてやれるようにと、幸いにして蓄えはある。この頑固者はどう考えても、大学に行くとか、就職するとか、そういった普通の道を歩みながらボクシングをするという選択肢を選ばないらしい。
「・・・わかった」
父親の観念したような声に、宮田はふっと顔を上げて、次の言葉を待った。
「タイに・・・ワシが現役の頃世話になったプロモーターがいる。会長や木田くんにも相談してみよう。ただな、一郎」
そういうと父親はキッチンを離れ、部屋のベッドに腰掛けて、息子を改めて見据えた。その表情は、トレーナーと言うよりは、父親としての顔に見えた。
「お前の頑固さは、時には硬い意思としてボクサーに必要な闘志を燃やしてくれる燃料になるだろう。しかし時に、誰の意見にも聞く耳を持たぬ栓にもなりかねる」
「・・・分かってるよ」
「少しは、人の助言も耳に入れるように」
「練習に文句を言ったことはないだろ」
「進路には文句しか言わないだろう」
「今はボクシングの話をしてるんじゃないのかよ」
「お前の進路の話をしているんだろう?」
「もう、うるさいな分かったよ。ほらもうすぐ1時間だよ、料金あがるよ」
宮田は時計をチラリと見ながら父親を何とか帰らそうと、コインパーキングの話を持ち出した。父親もなるべくなら安く済ませたいわけで、必然的に話を切り上げざるを得なかった。
「で、話って言うのはなんだ」
食べ終わった二人分のカレー皿をキッチンへ下げる息子の背中目掛けて、父親がなんとも呑気に呟くものだから、宮田は小さなため息をつきながら、
「進路のことだよ」
「・・・就職先、見つかったのか」
とうとう息子も真っ当な道を進む決心がついたかと、驚き半分、嬉しさ半分の気持ちが声色にも反映されたらしい。
見当違いの返事を聞いて、宮田はキッチンから台拭きをテーブルに投げた。父親はそのぶっきらぼうな反応から、どうも回答が間違っているらしいことを知る。
「海外・・・・」
「ん?」
父親は、腕を組みながらキッチンにもたれかかったままの息子の近くへ台拭きを持っていって、その様子を伺う。
「海外で・・・OPBF圏内を回って、ランキング狩りがしたいんだ」
何を言い出したかと思うと、真っ当な道どころか純度100%のボクシング道を打ち出してきた息子に、父親は当然反発する。
「何の為に?」
「アイツと戦るためさ」
「アイツって・・・幕之内か?もういいだろう、何度も言っているが、減量も厳しくなってきたし、階級を変えて日本でじっくりと・・」
「時間がないんだよ、父さん!」
宮田は組んでいた腕を外して拳を掌に打ち付け、湧き上がる感情を抑えられずに声を荒げた。
「アイツと戦るまで、階級を変える気はない。アイツはいずれ、日本ランキングに上がってくるだろう。その時オレがOPBFタイトルを獲っていれば、戦る確率はかなり高くなるはずだ。その為には回り道なんてしてられないんだよ」
「し、しかし・・・」
「頼むよ、父さん」
「む、むう」
いずれ息子を大学にも行かせてやれるようにと、幸いにして蓄えはある。この頑固者はどう考えても、大学に行くとか、就職するとか、そういった普通の道を歩みながらボクシングをするという選択肢を選ばないらしい。
「・・・わかった」
父親の観念したような声に、宮田はふっと顔を上げて、次の言葉を待った。
「タイに・・・ワシが現役の頃世話になったプロモーターがいる。会長や木田くんにも相談してみよう。ただな、一郎」
そういうと父親はキッチンを離れ、部屋のベッドに腰掛けて、息子を改めて見据えた。その表情は、トレーナーと言うよりは、父親としての顔に見えた。
「お前の頑固さは、時には硬い意思としてボクサーに必要な闘志を燃やしてくれる燃料になるだろう。しかし時に、誰の意見にも聞く耳を持たぬ栓にもなりかねる」
「・・・分かってるよ」
「少しは、人の助言も耳に入れるように」
「練習に文句を言ったことはないだろ」
「進路には文句しか言わないだろう」
「今はボクシングの話をしてるんじゃないのかよ」
「お前の進路の話をしているんだろう?」
「もう、うるさいな分かったよ。ほらもうすぐ1時間だよ、料金あがるよ」
宮田は時計をチラリと見ながら父親を何とか帰らそうと、コインパーキングの話を持ち出した。父親もなるべくなら安く済ませたいわけで、必然的に話を切り上げざるを得なかった。