49.弱いのは
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「・・・なんでここがわかった」
宮田がうんざりした顔でつぶやくと、蓼丸は嬉しそうな笑顔で応えた。
「え〜?」
「担任にもジムにも口止めしておいたはずだ」
宮田は幕之内を始め余計な見舞客が来ないよう、父親経由であらかじめ策を講じていたのだが、どうやら蓼丸はその策をかい潜ってきたらしい。
その押しの強さにどっと疲れを感じて、宮田は重いため息をついた。
「じゃあ、高杉さんはどうして分かったの?」
「・・・・花屋にでも聞いたんだろ」
宮田が面白くなさそうにつぶやいたものの、蓼丸にはよく聞こえなかったらしい。ニヤニヤと不敵な笑いを浮かべながら、さらに宮田の体にしなだれかかって、
「確かに担任は教えてくれなかったけど、職員室のホワイトボードに病院名が書いてあったんだよね」
担任も宮田の口止めについて深い考えを持っていなかったのだろう。確かに口は硬かったが、やることは雑なものだと宮田は心底呆れて、それから思い出したように腕に絡みつく蓼丸を振り解くと、蓼丸は「あぁん」とまた悩ましい声を出して戯けた。
「それにしても・・・・あんな楽しそうな声、初めて聞いたなあ」
蓼丸は丸椅子に座ると、長い腕と足を組んで、はぁっと大きく息を吐きながら、観念したようにつぶやいた。
「私には心を開いてくれてたと思ってたけど、まだまだだったかぁ」
「・・・・何の話だ」
「アナタの元恋人の話ですよぉ」
意地悪そうな声で蓼丸が茶化すと、宮田は面白くなさそうに腕を組んで黙った。
それを見て蓼丸はプッと吹き出し、
「未練たっぷりの顔してるよね」
「うるせぇな」
「かわいいなぁ一郎くんは」
蓼丸はそれから着ていたコートをおもむろに脱ぎ始め、長居をするつもりなのが丸わかりの様子だ。
招き入れたつもりもこれから談笑するつもりもない、取り付く島もない宮田のオーラを目の前に、どこ吹く風のあっぱれな態度だ。
「名前で呼ぶな」
「元恋人がどの面下げて見舞いに来たのかと思ったけど」
「・・・随分不愉快な言い方だな」
「だってそうじゃない?何を今更って感じ。さっきもしっぽ巻いて逃げて行ったじゃない」
蓼丸が意地悪そうに言い放つと、宮田はいつものポーカーフェイスをやや崩してムキになって、
「お前が誤解させるようなことを言うからだろ」
「あら、否定しなかったのは誰?」
「する間があったと思うか?」
「追いかけもしなかった癖に」
蓼丸は宮田の言葉をことごとく遮って、いじわるそうな、それでいてどこか、悲しそうな目をして続けた。
「ってか・・・一郎くんのそういうとこ本当に最悪。だから逃げられたんでしょ」
「・・・戻ってきそうなところを邪魔されたがな」
「邪魔されて逃げていくような弱い女なんて、一郎くんには相応しくないって」