47.許されるなら
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そこにふっと浮かんだ、奈々の顔。
もうずっと試合を見に来ていないのは知っていた。
だが入院したことは当然、木村経由で話が伝わるだろう。
アイツなら来るはずだ、なんて浮ついた推測はしない。
もう一人のオレが言う。
誰にも心を開くなと。
そんなもの開いたところで人は容易に離れていく。
子どもの目で見た世界はこれ以上ないほど残酷で、痛々しい事実だった。
でも・・・
気がついたら眠っていたらしい。
左手に微かに体温を感じ、ピクリと動かしてみるとすぐに誰かの気配が現れた。
うっすら目を開けてみると、検温中のナースが目に入った。
変な期待をしかけた自分を見ないふりして、窓の外に目をやろうとしたその時、
懐かしい顔が目の前に現れた。
窓側の椅子に座っていた奈々は、宮田と目が合うなりシーツを両手でぐしゃりとつかんで頭を下げ、絞り出すような声で独り言のように呟いた。
「よかった・・・・」
その横で検温の終わったナースは、「面会時間終了まであと少しですからね」と冷静な忠告をして立ち去った。
ナースが出ていった廊下からガラガラと何やら騒がしい音が聞こえる。もうすぐ夕食の時間で、配膳などが始まっているらしかった。
「入院したって聞いて・・・・」
奈々は顔を伏せたまま、少し震えた声で話し始めた。
「迷惑だってわかってたけど・・・どうしても・・・そばにいたかった・・・」
奈々の話の最中でポーンと無機質な電子音が流れたかと思うと、“あと10分で面会時間終了です。まだ面会中の方がいらっしゃいましたら、速やかに面会を終了していただけますよう、お願い申し上げます。”とアナウンスが流れ、奈々はハッと頭を持ち上げた。
宮田は目を覚ました時と同じ顔のまま固まったままで、奈々はその無機質な顔に思わず過剰な反応を見せた。
自分がいくら心配で側にいて支えたいと思ったとしても、宮田にとっては自分など、リアクションにも困るような迷惑な客でしかないのだと。
自分の自惚れた考えを目の当たりにして、恥ずかしさで顔が燃えるように熱く感じられた。
「お、押しかけてきて・・・ごめん。もう、帰るから」
奈々はガタリと椅子から立ち上がり、床に置いた鞄を持ち上げてベッドサイドから離れた。
もう一度宮田の顔を見たら心が折れてしまう気がして、極力焦点をそこへ合わせずに、かつ異変を悟られないように自然に別れを告げようと思った時、宮田がベッドから起き上がり、頭を抱えているのが目に入った。
奈々は慌てて駆け寄り、
「ど、どうしたの!?頭が痛いの?ナ、ナース呼ぶ?」
「・・・・いや」
「でも・・・」
「良いって言ってんだろ」
「だけど・・ちょっと見せてよ、頭・・」
頭を抱える宮田の両腕を掴んで様子を伺おうと思った奈々は、目の前の宮田の異変に気がつき、それから言葉を失った。
宮田が手で覆っているのは頭ではなく、目だったからだ。
宮田の体は熱いが小刻みに震え、小さく小さく歯を食いしばる音が聞こえた。
「ご、ごめ・・・」
宮田の涙を前に去るべきか立ち止まるべきか、一体どうして良いかわからず立ち尽くしていると、夕食を運びにきた職員から「もう面会時間は終わりですよ」と声をかけられた。
頭を抱えて止まったままの宮田を放っておけるわけはなかったが、家族でも無い自分にそんな資格はない。
再び鞄を背負い、病室のドアまで歩いていく。少しだけ振り返り様子を見たが、宮田は同じ格好で停止したままだった。
「明日・・・また来ても良い?」
宮田からの返事は無かったが、小さく頷いたのが見えた。
もうずっと試合を見に来ていないのは知っていた。
だが入院したことは当然、木村経由で話が伝わるだろう。
アイツなら来るはずだ、なんて浮ついた推測はしない。
もう一人のオレが言う。
誰にも心を開くなと。
そんなもの開いたところで人は容易に離れていく。
子どもの目で見た世界はこれ以上ないほど残酷で、痛々しい事実だった。
でも・・・
気がついたら眠っていたらしい。
左手に微かに体温を感じ、ピクリと動かしてみるとすぐに誰かの気配が現れた。
うっすら目を開けてみると、検温中のナースが目に入った。
変な期待をしかけた自分を見ないふりして、窓の外に目をやろうとしたその時、
懐かしい顔が目の前に現れた。
窓側の椅子に座っていた奈々は、宮田と目が合うなりシーツを両手でぐしゃりとつかんで頭を下げ、絞り出すような声で独り言のように呟いた。
「よかった・・・・」
その横で検温の終わったナースは、「面会時間終了まであと少しですからね」と冷静な忠告をして立ち去った。
ナースが出ていった廊下からガラガラと何やら騒がしい音が聞こえる。もうすぐ夕食の時間で、配膳などが始まっているらしかった。
「入院したって聞いて・・・・」
奈々は顔を伏せたまま、少し震えた声で話し始めた。
「迷惑だってわかってたけど・・・どうしても・・・そばにいたかった・・・」
奈々の話の最中でポーンと無機質な電子音が流れたかと思うと、“あと10分で面会時間終了です。まだ面会中の方がいらっしゃいましたら、速やかに面会を終了していただけますよう、お願い申し上げます。”とアナウンスが流れ、奈々はハッと頭を持ち上げた。
宮田は目を覚ました時と同じ顔のまま固まったままで、奈々はその無機質な顔に思わず過剰な反応を見せた。
自分がいくら心配で側にいて支えたいと思ったとしても、宮田にとっては自分など、リアクションにも困るような迷惑な客でしかないのだと。
自分の自惚れた考えを目の当たりにして、恥ずかしさで顔が燃えるように熱く感じられた。
「お、押しかけてきて・・・ごめん。もう、帰るから」
奈々はガタリと椅子から立ち上がり、床に置いた鞄を持ち上げてベッドサイドから離れた。
もう一度宮田の顔を見たら心が折れてしまう気がして、極力焦点をそこへ合わせずに、かつ異変を悟られないように自然に別れを告げようと思った時、宮田がベッドから起き上がり、頭を抱えているのが目に入った。
奈々は慌てて駆け寄り、
「ど、どうしたの!?頭が痛いの?ナ、ナース呼ぶ?」
「・・・・いや」
「でも・・・」
「良いって言ってんだろ」
「だけど・・ちょっと見せてよ、頭・・」
頭を抱える宮田の両腕を掴んで様子を伺おうと思った奈々は、目の前の宮田の異変に気がつき、それから言葉を失った。
宮田が手で覆っているのは頭ではなく、目だったからだ。
宮田の体は熱いが小刻みに震え、小さく小さく歯を食いしばる音が聞こえた。
「ご、ごめ・・・」
宮田の涙を前に去るべきか立ち止まるべきか、一体どうして良いかわからず立ち尽くしていると、夕食を運びにきた職員から「もう面会時間は終わりですよ」と声をかけられた。
頭を抱えて止まったままの宮田を放っておけるわけはなかったが、家族でも無い自分にそんな資格はない。
再び鞄を背負い、病室のドアまで歩いていく。少しだけ振り返り様子を見たが、宮田は同じ格好で停止したままだった。
「明日・・・また来ても良い?」
宮田からの返事は無かったが、小さく頷いたのが見えた。