後楽園ホールの医務室で意識を取り戻した宮田は、精密検査を受けるためにすぐ病院へ搬送された。


受け答えにもはっきりと答えており、今のところ頭部へのダメージは酷くなさそうだ。
それよりも何よりの商売道具である足に影響が出ることが懸念された。


宮田はガンガンと頭が破れそうな頭痛の中、勝負に負けて幕之内一歩との約束が果たせなかった悔しさと申し訳なさで、拳を力一杯握りしめるしかなかった。




勝てた試合だったんだ。
勝っていたんだ。
故意に足を踏まれた。
だけどレフェリーは気づかなかった。
オレはまんまとやられたんだ。
あのクソ野郎にまんまと・・・


卑怯な手を使いやがってと責めたところで、オレの負けは変わらない。
約束を果たせなかったことには変わりない。


畜生・・・
畜生・・・・・！！！




悔しさと頭の痛みに支配され、疲労困憊の中、浅い眠りが続いた。
意識を失うように寝ては、痛みと悔しさに叩き起こされる。
その日は、このまま明けないのではないかと思うほどに長い夜だった。









息子が入院したとはいえ、宮田父も会社をずっと休むわけにはいかない。昨日今日は休んだようだが、最近は退勤後に顔を出すようなスタイルで、日中の世話はマネージャーの木田に頼んだ。だがもちろん木田も、１日中ずっとそばについているわけではない。


4人部屋に1人しかいないガランとした空間の中、宮田はぼうっと天井を見ていた。体の痛みはだいぶおさまってきたが、悔しさはそれに反比例してますばかり。


幕之内などが病室を尋ねてきたらしいが、とてもじゃないが招き入れる心境にはなれない。
見舞いに来てもらったところで、合わせる顔などない。
どんな顔をして詫びればいい？
自分が一方的に押し付けた約束を、ボロボロになりながら果たしたアイツに顔向けができない。


誰もいない病室でひとり、やり場のない拳を握り込める。





父親がかつて敗北し、砕けた顎と心の治療で入院生活を送っていた時。
あれだけ周囲にいた連中が潮が引くようにいなくなったのを思い出す。


支えになるはずの母親まで・・・




“辛い時どうしてそばにいてくれないの？”




あの時誓ったじゃないか。
オレは憧れたあのスタイルで、頂点を取るんだって。
オレだけがあの胸の高鳴りを覚えていればいいって。
オレはこの道を進むだけだって。




一人がどうした？元々そうだったろ？