5.バレンタイン・デイ
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「こんちわあ」
木村がジムへ入ると、青木や鷹村はすでにアップを済ませてこれからミット打ちに入るところだった。
「木村ぁ、さっさと支度せぇ!」
「は、はいっ」
会長に言われて急いでロッカーへ向かう。
ロッカーではつい先ほど着いたばかりらしい宮田が着替えを始めていた。
「遅かったですね」
珍しく宮田から話しかけると、木村は
「配達が長引いてよ」
と答えながら服を脱ぐ。
「お前今日はどうだ?豊作か?」
「・・・何がです」
「チョコレートだよチョコレート!何がです?じゃねぇよ感じ悪ぃなぁ」
宮田がこの時期、学校でまぁまぁチョコレートをもらってくるのはジムでも有名な話だった。もちろん宮田も聞かれていることを知りながら、わざとトボけて見せる。
「ところで・・・本命からもらったんだろ?」
木村は名前こそ出さないが、大切な妹分である奈々のことを仄かして言った。宮田は当たり前のような顔をして半分呆れながら答える。
「もらいましたけど」
「ちなみにお兄ちゃんも貰っちゃったもんね」
「・・・そうですか」
「あ!なんだそのどうでもいい感じ!オレは毎年毎年ずーっとアイツから手作りチョコ貰ってんだからな!?」
「はいはい」
「今年も手作りだったけど、字が汚ねぇのなんのって・・・」
「はいはい」
「聞けよ人の話!」
先に着替えを終えた宮田が立ち上がり、どうでもよさそうに「お先です」と言ってロッカールームを出て行った。
ーーーーー
それからチョコレートのことなどすっかり忘れて帰宅。
自室に入り、カバンを開けて始めてその存在に気がついた。
今年はそれでも去年よりは少ないようで、やり慣れた作業のようにカバンに手を入れて、チョコレートを雑につかんで取り出した。
チョコレートに付随した手紙類は、開封しないで捨ててしまう。
以前うっかり読んでしまい、罪悪感のような嫌悪感のようなわからない感情が胸に止まり悪夢を見たことがあったからだ。
「・・・アイツのは・・・コレだったな」
包紙の上にテープで小さな手紙が貼られている。
可愛いもの好きのアイツが選びそうなデザインのメモ帳に一言、
『いつもありがとう。奈々』
とだけ書かれていた。
そして包装紙を開けて中を見てみる。
色々な形やフレバーの入った、チョコレートのアソート。
これなら一気に食べずに済むからありがたいな、なんて思った瞬間、何かとても重要なことを忘れているような、そんな違和感を持った。
“今年も手作りだったけど、字が汚ねぇのなんのって・・・”
「・・・・手作り?」
思わず外箱を確認する。
バッチリとバーコードの入った、まぎれもない既製品だ。
何の気なしに食べようと思った1口目が止まる。
自分には既製品で、木村には手作り?
「一郎、帰ってるか?」
心に何かザワッとしたものが芽生えた時、父親がドアをノックする音で、フッと我に返った。
「・・・帰ってるよ」
息子の返事を聞いて、父親はガチャリとドアを開けて入ってきた。そして持っていた封筒を差し出して、
「明日、教材費の提出日だったろ?準備しておいたぞ」
「ああ・・・ありがとう」
封筒を渡す際に、机の上に無造作に置かれたチョコレートを見つけた父親は、
「今年は少ないな」
と笑って、
「彼女ができると人気も落ちるんだな」
「・・・さぁ・・・持って行ってよ」
「う、うむ」
父親は彼女からチョコレートをもらったはずなのに、どこか浮かない顔をしている息子が気になり、
「本命からはちゃんともらったんだろ?」
すると宮田は、手にずっと持っていた半分溶けかかったチョコレートをやっと口に放り込み、
「・・・もらったけど」
と言って黙った。
「なんか不服そうだな」
「別に」
「お礼はきっちりしておけよ」
「OK」
父親が部屋を出て行ったあとで、2つめを口に放る。
なんだか妙に苦いのは、ビター味だからということにしておいた。
木村がジムへ入ると、青木や鷹村はすでにアップを済ませてこれからミット打ちに入るところだった。
「木村ぁ、さっさと支度せぇ!」
「は、はいっ」
会長に言われて急いでロッカーへ向かう。
ロッカーではつい先ほど着いたばかりらしい宮田が着替えを始めていた。
「遅かったですね」
珍しく宮田から話しかけると、木村は
「配達が長引いてよ」
と答えながら服を脱ぐ。
「お前今日はどうだ?豊作か?」
「・・・何がです」
「チョコレートだよチョコレート!何がです?じゃねぇよ感じ悪ぃなぁ」
宮田がこの時期、学校でまぁまぁチョコレートをもらってくるのはジムでも有名な話だった。もちろん宮田も聞かれていることを知りながら、わざとトボけて見せる。
「ところで・・・本命からもらったんだろ?」
木村は名前こそ出さないが、大切な妹分である奈々のことを仄かして言った。宮田は当たり前のような顔をして半分呆れながら答える。
「もらいましたけど」
「ちなみにお兄ちゃんも貰っちゃったもんね」
「・・・そうですか」
「あ!なんだそのどうでもいい感じ!オレは毎年毎年ずーっとアイツから手作りチョコ貰ってんだからな!?」
「はいはい」
「今年も手作りだったけど、字が汚ねぇのなんのって・・・」
「はいはい」
「聞けよ人の話!」
先に着替えを終えた宮田が立ち上がり、どうでもよさそうに「お先です」と言ってロッカールームを出て行った。
ーーーーー
それからチョコレートのことなどすっかり忘れて帰宅。
自室に入り、カバンを開けて始めてその存在に気がついた。
今年はそれでも去年よりは少ないようで、やり慣れた作業のようにカバンに手を入れて、チョコレートを雑につかんで取り出した。
チョコレートに付随した手紙類は、開封しないで捨ててしまう。
以前うっかり読んでしまい、罪悪感のような嫌悪感のようなわからない感情が胸に止まり悪夢を見たことがあったからだ。
「・・・アイツのは・・・コレだったな」
包紙の上にテープで小さな手紙が貼られている。
可愛いもの好きのアイツが選びそうなデザインのメモ帳に一言、
『いつもありがとう。奈々』
とだけ書かれていた。
そして包装紙を開けて中を見てみる。
色々な形やフレバーの入った、チョコレートのアソート。
これなら一気に食べずに済むからありがたいな、なんて思った瞬間、何かとても重要なことを忘れているような、そんな違和感を持った。
“今年も手作りだったけど、字が汚ねぇのなんのって・・・”
「・・・・手作り?」
思わず外箱を確認する。
バッチリとバーコードの入った、まぎれもない既製品だ。
何の気なしに食べようと思った1口目が止まる。
自分には既製品で、木村には手作り?
「一郎、帰ってるか?」
心に何かザワッとしたものが芽生えた時、父親がドアをノックする音で、フッと我に返った。
「・・・帰ってるよ」
息子の返事を聞いて、父親はガチャリとドアを開けて入ってきた。そして持っていた封筒を差し出して、
「明日、教材費の提出日だったろ?準備しておいたぞ」
「ああ・・・ありがとう」
封筒を渡す際に、机の上に無造作に置かれたチョコレートを見つけた父親は、
「今年は少ないな」
と笑って、
「彼女ができると人気も落ちるんだな」
「・・・さぁ・・・持って行ってよ」
「う、うむ」
父親は彼女からチョコレートをもらったはずなのに、どこか浮かない顔をしている息子が気になり、
「本命からはちゃんともらったんだろ?」
すると宮田は、手にずっと持っていた半分溶けかかったチョコレートをやっと口に放り込み、
「・・・もらったけど」
と言って黙った。
「なんか不服そうだな」
「別に」
「お礼はきっちりしておけよ」
「OK」
父親が部屋を出て行ったあとで、2つめを口に放る。
なんだか妙に苦いのは、ビター味だからということにしておいた。