46.震える
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「み、宮田は今日は・・・なんの話?」
「進路指導」
「へ、へぇ・・・。進路って言っても、ボクシング以外に言うことないよね」
「そんな単純じゃねぇよ。進学はしねぇけど、ボクシングだけで食っていけてるわけじゃねぇしな」
「じゃあ就職するの?」
「・・・そういう話をこれからするんだよ」
「そっかぁ・・」
宮田と別れたのなんてもう10ヶ月も前で、その間のコンタクトなんてほぼ無いに等しい。
すれ違えば挨拶をすることはあっても、こんなふうに会話をしたのは本当に久しぶりだ。
なんだか懐かしい気持ちになりながら、今までとは違う関係性である事実は、しっかりと心に釘を刺す。
「お前は?」
「え?あ、ああ・・・私は英文科に行こうと思って」
「そっか」
「スティーブン監督の映画、やっぱり字幕なしで見たいじゃん?」
「動機が不純」
「う、うるさいなぁ。動機は大事じゃないの」
「でもまぁ、オレもオリジナルのセリフのニュアンスは気になる」
「でしょ!?字幕も吹き替えも、あのオリジナルのニヒリズムを表現し切れてないんだよね!」
ワイワイとオタク話に花が咲く。
そういえば付き合う前、付き合ってしばらくしてからも、こんなふうに宮田と笑い合ってたよな、なんてことを思い出した。
そんな盛り上がる最中、
「待たせたな。いやー探した探した」
宮田の担任教師が勢いよくドアを開けて入ってきた。
“探した”と言いつつも息が全く乱れていないところを見ると、焦って走ってきたわけでもなさそうだ。
「じゃあ宮田から・・・と言いたいところだが、お前は長引きそうだから先に高杉から見てやる」
「えっ・・・あ、はいっ」
奈々がすっくと立ち上がり、宮田の前を通って教師のデスクまで行こうとした時、宮田は例の腕を組んだ姿勢のままで、
「高杉」
と呼び止めた。
突然のことで奈々の体は一瞬びくっと跳ね、反射的に宮田の方に顔を向けた。
「な、何?」
「・・・自信持てよ」
「え?」
宮田はそれまで閉じていた目を開けて、ほんの少しだけ口角を上げて、
「お前なら大丈夫だから」
と言ってまた目を閉じた。
相手が目を閉じているのをいいことに、ずっとずっとその姿を見ていたかった。
単純な言葉なのに、誰だっていいそうなことなのに、宮田が言うとどうしてか、安心する。
私は大丈夫なんだって、心の底から、自信が湧いてくる。
「あ・・あり・・・・」
「おい高杉!!まだか!?後がつかえてんだぞ」
「はっ、はい!」
お礼は教師の大声にかき消され、これまた反射的に返事をして、体は機械的に教師のデスクにある小さな丸椅子へと向かった。
ふっと心を落ち着けて椅子に座ると、教師が奈々をジロリと見て、何かを思い出したように目を見開いていった。
「お前らそういえば付き合っていたよな。別れても仲良く話できるって、いい別れ方したなあ」
「は・・・・はあ」
ソファに座っている宮田だけでなく国語準備室中にいた誰もに聞こえわたるであろうそのセリフは、浮ついた奈々の心を現実に引き戻すのに十分な威力を持っていた。
ーーーーー
「進路指導」
「へ、へぇ・・・。進路って言っても、ボクシング以外に言うことないよね」
「そんな単純じゃねぇよ。進学はしねぇけど、ボクシングだけで食っていけてるわけじゃねぇしな」
「じゃあ就職するの?」
「・・・そういう話をこれからするんだよ」
「そっかぁ・・」
宮田と別れたのなんてもう10ヶ月も前で、その間のコンタクトなんてほぼ無いに等しい。
すれ違えば挨拶をすることはあっても、こんなふうに会話をしたのは本当に久しぶりだ。
なんだか懐かしい気持ちになりながら、今までとは違う関係性である事実は、しっかりと心に釘を刺す。
「お前は?」
「え?あ、ああ・・・私は英文科に行こうと思って」
「そっか」
「スティーブン監督の映画、やっぱり字幕なしで見たいじゃん?」
「動機が不純」
「う、うるさいなぁ。動機は大事じゃないの」
「でもまぁ、オレもオリジナルのセリフのニュアンスは気になる」
「でしょ!?字幕も吹き替えも、あのオリジナルのニヒリズムを表現し切れてないんだよね!」
ワイワイとオタク話に花が咲く。
そういえば付き合う前、付き合ってしばらくしてからも、こんなふうに宮田と笑い合ってたよな、なんてことを思い出した。
そんな盛り上がる最中、
「待たせたな。いやー探した探した」
宮田の担任教師が勢いよくドアを開けて入ってきた。
“探した”と言いつつも息が全く乱れていないところを見ると、焦って走ってきたわけでもなさそうだ。
「じゃあ宮田から・・・と言いたいところだが、お前は長引きそうだから先に高杉から見てやる」
「えっ・・・あ、はいっ」
奈々がすっくと立ち上がり、宮田の前を通って教師のデスクまで行こうとした時、宮田は例の腕を組んだ姿勢のままで、
「高杉」
と呼び止めた。
突然のことで奈々の体は一瞬びくっと跳ね、反射的に宮田の方に顔を向けた。
「な、何?」
「・・・自信持てよ」
「え?」
宮田はそれまで閉じていた目を開けて、ほんの少しだけ口角を上げて、
「お前なら大丈夫だから」
と言ってまた目を閉じた。
相手が目を閉じているのをいいことに、ずっとずっとその姿を見ていたかった。
単純な言葉なのに、誰だっていいそうなことなのに、宮田が言うとどうしてか、安心する。
私は大丈夫なんだって、心の底から、自信が湧いてくる。
「あ・・あり・・・・」
「おい高杉!!まだか!?後がつかえてんだぞ」
「はっ、はい!」
お礼は教師の大声にかき消され、これまた反射的に返事をして、体は機械的に教師のデスクにある小さな丸椅子へと向かった。
ふっと心を落ち着けて椅子に座ると、教師が奈々をジロリと見て、何かを思い出したように目を見開いていった。
「お前らそういえば付き合っていたよな。別れても仲良く話できるって、いい別れ方したなあ」
「は・・・・はあ」
ソファに座っている宮田だけでなく国語準備室中にいた誰もに聞こえわたるであろうそのセリフは、浮ついた奈々の心を現実に引き戻すのに十分な威力を持っていた。
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