42.扉の奥で
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「宮田くーん、早く!遅れちゃうよお!」
後ろから聞こえてきたのは・・・宮田と同じクラスの女子、蓼丸の声だった。
「早く早く!」
「うるせぇな」
「また遅れたら先生に呼ばれるよぉ!」
「わかってるよ」
宮田はそのまま前方へ歩き出し、振り向きもしなかった。
今し方の嵐のような出来事に奈々はしばし固まって、それからハッと我に返ってパタパタと教室を目指して走り始めた。
今・・・何を言おうとしたんだろう・・・
宮田の手に触れたあの一瞬、雷が落ちてきたみたいに全身が痺れて、動けなくなった。
じっとこちらの心を見透かすような、凛とした目つきが、頭から離れない。
パタパタと走って通り過ぎた職員室前の掲示板に、これまたいつぞや見たあの、覚醒剤禁止啓蒙ポスターが貼ってあった。
「ダメ、ゼッタイ。もうゼッタイダメ。ダメダメ!ダメー!!」
ハァハァと息を切らし教室へ戻ると、別の授業を受けていた他の3人はまだ戻ってきていなかった。動揺しているところを見られようものならまた質問責めに合うに決まっている。ふぅと深呼吸して、机に突っ伏した。
なんであんなところでハンカチなんて落とすかな・・・
ハンカチとメモ帳を同じポケットに入れてたからかな・・・
なんてあれこれ考えているうちに浮かんできたラストシーン。
宮田が蓼丸に呼ばれて、歩いて行ってしまった情景。
何を言おうとしたんだろう・・・・
それに蓼丸さんと・・・今・・・どうなってるのかな・・・・
そんなこと思う資格も考える資格もないけど・・・
覚悟はしてたはずだ。
宮田と別れるってことは、誰かにその席を譲るということだと。
だけど、その席に座る人は・・・宮田が心から惚れ抜いたような人であって欲しい。
そして、宮田を支えてくれる人であって欲しい。
「ああーーーーーでもやっぱ複雑。フクザツうぅうううう!」
頭を抱えて髪の毛がぐしゃぐしゃになるほどかきむしりながら悶えていると、ちょうど別の移動教室から戻ってきた3人にそれを目撃されていたらしい。
「ど、どうしたの奈々」
「なになに?大丈夫?」
「あ・・・いや、次の授業当たりそうだからさ・・・予習やってないのに」
ははは、と乾いた笑いで取り繕い、その場をどうにか切り抜けた。
ーーーーーーーーーーー
久々にアイツと話をした。
無視されていたわけでもしていたわけでもないが、お互いが積極的にコンタクトを取ろうとしないとここまで接点がないのかと驚くほどだ。
相変わらず小学生みたいな趣味のキラキラした私物を見て、懐かしさに思わず頬が緩みそうになった。
久しぶりのコンタクトは別れたことを忘れてしまいそうなほど自然すぎて、それが返って、一度きりの偶然の接触という残酷さを強調する。
何度も交わしたはずの目線が今や、“偶然の数秒”の産物か。
自嘲気味に笑いたくなるのを堪えて前を向く。
「ありがとう」といって笑ったアイツの周りには色とりどりの光が咲いていて、あの女に呼び止められるまで、自分が見惚れていたことにも気が付かなかった。
その光に背を向けて歩き始めた眼前には、黒く細長い道が続いていた。
自分の体が作り出した、長い長い影。
思わず振り返りたくなるのを堪え、キッと鋭く目線を上げて、その黒く細長い道の先に、金色の栄光を描く。
自分が今手を伸ばすべきは・・・この道だ。
ポケットの中でぐっと拳を握ると、胸の奥でバタンと重たいドアが閉まったような音が聞こえた。
後ろから聞こえてきたのは・・・宮田と同じクラスの女子、蓼丸の声だった。
「早く早く!」
「うるせぇな」
「また遅れたら先生に呼ばれるよぉ!」
「わかってるよ」
宮田はそのまま前方へ歩き出し、振り向きもしなかった。
今し方の嵐のような出来事に奈々はしばし固まって、それからハッと我に返ってパタパタと教室を目指して走り始めた。
今・・・何を言おうとしたんだろう・・・
宮田の手に触れたあの一瞬、雷が落ちてきたみたいに全身が痺れて、動けなくなった。
じっとこちらの心を見透かすような、凛とした目つきが、頭から離れない。
パタパタと走って通り過ぎた職員室前の掲示板に、これまたいつぞや見たあの、覚醒剤禁止啓蒙ポスターが貼ってあった。
「ダメ、ゼッタイ。もうゼッタイダメ。ダメダメ!ダメー!!」
ハァハァと息を切らし教室へ戻ると、別の授業を受けていた他の3人はまだ戻ってきていなかった。動揺しているところを見られようものならまた質問責めに合うに決まっている。ふぅと深呼吸して、机に突っ伏した。
なんであんなところでハンカチなんて落とすかな・・・
ハンカチとメモ帳を同じポケットに入れてたからかな・・・
なんてあれこれ考えているうちに浮かんできたラストシーン。
宮田が蓼丸に呼ばれて、歩いて行ってしまった情景。
何を言おうとしたんだろう・・・・
それに蓼丸さんと・・・今・・・どうなってるのかな・・・・
そんなこと思う資格も考える資格もないけど・・・
覚悟はしてたはずだ。
宮田と別れるってことは、誰かにその席を譲るということだと。
だけど、その席に座る人は・・・宮田が心から惚れ抜いたような人であって欲しい。
そして、宮田を支えてくれる人であって欲しい。
「ああーーーーーでもやっぱ複雑。フクザツうぅうううう!」
頭を抱えて髪の毛がぐしゃぐしゃになるほどかきむしりながら悶えていると、ちょうど別の移動教室から戻ってきた3人にそれを目撃されていたらしい。
「ど、どうしたの奈々」
「なになに?大丈夫?」
「あ・・・いや、次の授業当たりそうだからさ・・・予習やってないのに」
ははは、と乾いた笑いで取り繕い、その場をどうにか切り抜けた。
ーーーーーーーーーーー
久々にアイツと話をした。
無視されていたわけでもしていたわけでもないが、お互いが積極的にコンタクトを取ろうとしないとここまで接点がないのかと驚くほどだ。
相変わらず小学生みたいな趣味のキラキラした私物を見て、懐かしさに思わず頬が緩みそうになった。
久しぶりのコンタクトは別れたことを忘れてしまいそうなほど自然すぎて、それが返って、一度きりの偶然の接触という残酷さを強調する。
何度も交わしたはずの目線が今や、“偶然の数秒”の産物か。
自嘲気味に笑いたくなるのを堪えて前を向く。
「ありがとう」といって笑ったアイツの周りには色とりどりの光が咲いていて、あの女に呼び止められるまで、自分が見惚れていたことにも気が付かなかった。
その光に背を向けて歩き始めた眼前には、黒く細長い道が続いていた。
自分の体が作り出した、長い長い影。
思わず振り返りたくなるのを堪え、キッと鋭く目線を上げて、その黒く細長い道の先に、金色の栄光を描く。
自分が今手を伸ばすべきは・・・この道だ。
ポケットの中でぐっと拳を握ると、胸の奥でバタンと重たいドアが閉まったような音が聞こえた。