39.たっちゃんのせい
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以前、まだ宮田が鴨川ジムにいた時のことをふと思い出す。
「宮田お前・・そのボッロボロの小銭入れ、なんなんだよ?」
「・・・気に入っているからずっと使ってるだけだけど」
「何年使ったらそんなにボロボロになんだよ?」
「10年くらいだけど。何か文句でもあるのかよ」
「べ、別にねぇけど!」
宮田はほつれてボロボロになった小銭入れをずっと使っていた。
そのほかにも、アイツは気に入ったものは延々とそれを使い続けるところがある。シューズやバンテージはここ数年ずっと同じメーカーの同じ品番を使い続けていると聞いた。
そして今も、一歩との対戦に拘って、ジムを移籍までしている。
元々頑固だが、それ以上に何か執着心みたいなものも人一倍ある男だ。
変な方向にいかなければいいが、と木村は宮田が心配で気が気じゃなかった。
宮田は今回のこと・・・・どう受け止めてんだ・・・・?
「・・・オレは・・納得いかねぇよ」
木村はグッと拳を握り締め、やや俯きがちにつぶやいた。
「クレープは流石に無理かもしれねぇけど・・・手くらいつなげるだろ?」
「・・・だって、さっさと先に歩いて行っちゃうし・・」
「追いかけて握ればいい話だろうがよ!?」
「・・っ!そんなふうに気楽に追いかけられるなら別れてないよ!」
宮田が時々誰も寄せ付けないようなオーラを放つ事があることを重々知っているのもあり、木村は“気楽に”という言葉を前に一瞬、言葉に詰まったが、続けて、
「お、お前のいいところは、宮田の懐にズカズカ入っていく天然で無神経なところだろうが」
「な、なにそれ!?」
木村のフォローになってない正直な発言に、今までさめざめと流れ出ていた涙が引っ込んだ。
「下手に遠慮してイイ女演じようなんて、らしくないこと考えてんじゃねぇよ」
「そんなんじゃないよ!」
「つーか宮田も別にお前に何かしてほしいなんて思ってねぇよ、考えすg・・・うごっ!」
振り下ろされたクッションで消された木村の発言。
奈々はお構いなしに何度も何度も振り下ろして、
「うるさい!うるさーい!うるさーーーい!!バカバカバカたっちゃんのバカ」
「バカはお前だ!」
「うるさい!何も知らないくせに!私を責めるのやめてよ!」
「オレはお前らのことずっと見てきたんだよ、何も知らないとは言わせねぇよ!」
「じゃあ、教えてよ!」
奈々は力一杯クッションを振り上げて、木村めがけて振り下ろした。
先ほどまで黙って攻撃を喰らい続けてきた木村だが、この一撃は流石に両手で受け止め、そのまましっかりと掴んで次撃の発動を許さなかった。
「何がだよ」
「たっちゃん、今言ったでしょう?“宮田は別にお前に何かしてほしいなんて思ってない”って」
「ああ」
「じゃあ、何も要らないなら・・・私がいる意味はどこにあるの?」
抱き止めたクッションの向こうに。、目に涙を浮かべた奈々が見える。
木村はふぅとため息をついて、クッションを払い除けてから、
「そりゃやっぱ・・・・アレだろ。宮田も男だしな」
「最っ低!」
「って嘘だよ。まぁオレは宮田じゃないし、お前の何が良かったのかはわからねぇよ。ただ・・・お前がずっと我慢してきて、辛かったのはわかんだけどさ。だけど・・・」
木村はしばし考えて、ポリポリと頭をかいた。
「オレ、驚いたんだよな、実際」
「・・・・何がよ」
むぅと唇を突き出して、面白くなさそうに奈々が聞き返すと、木村から返ってきた言葉は思いもよらないものだった。