34.一人がいい
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「こないだ進路調査票の提出日だったけど、出した?」
すると宮田は聞いたことのない外国語でも聞いたかのような顔をして、
「・・・なんだそれ」
「えっ・・いや、進路、調査票、だよ。どこに進学するとか就職するとか希望を書いて出すやつ」
「そんなのあったのか。出したこと一度もない」
「えー・・・もうボクサーとして就職しているから免除なのかなぁ」
奈々が不服そうに唇を尖らせて呟く。
それもそのはず、まだ高校2年生だと言うのに自分の将来の選択を日々あれこれ迫られるのはなかなかのストレスだからだ。
「将来やりたいこととか・・・勉強したいこととか言われても・・・なかなかピンと来なくて」
「・・・そっか」
「そりゃ好きなこととか・・・例えば映画とかはあるけど・・・別に映画作りたいわけじゃないしさ・・」
進路のことであれこれ思い悩む奈々の姿に、宮田はあまり共感ができないでいるのか、ひどくつまらなそうな態度で
「なんでもいいんじゃねぇの」
と呟いた。
確かに今の時点では何を書いても変更は聞くし、先生だってそんな真に受けるわけではないが、恋人の進路だと言うのに赤の他人の出来事のように言い放つ宮田に奈々は寂しさを感じずにはいられなかった。
小さい頃からボクシング一筋に生きてきた人間には、“進路の悩み”なんて無縁なのかもな、とは思ったものの、気はなかなか晴れない。
最寄駅についた後、宮田が家の前まで送ると言うので、そのまま一緒に降りた。
6時過ぎだと言うのにあたりはすっかり暗くなり、どこもシャッターが降りていて人気がない。
確かに宮田に家まで送ってもらって正解だったかもなと思いながら、奈々はふと頭に浮かんだ疑問を宮田にぶつけた。
「ところでさ、宮田は今晩どうするの?」
「・・・どうって?」
宮田は無表情でこちらを見たまま固まっている。
何とも何を考えているのかわかりづらい男だ。
「え、ど、どうって?お父さんと過ごす・・よね?」
「親父は実家に帰るみたいだけど、オレは行かない」
「えっ・・ひ、一人!?」
「悪いかよ」
宮田があまりにもナチュラルに口走るので開いた口が塞がらない。
大晦日の夜を一人で過ごすなんて、奈々には考えられないような孤独だった。
「なんで?大晦日って普通、家族で一緒に年越し蕎麦食べて、紅白見てさ・・・」
奈々がそう言うと、宮田は少し面倒臭そうに、
「家族で過ごさなきゃいけない決まりでもあるのかよ」
「・・・ないけど」
「色々面倒臭ぇんだよ。オレは一人がいい」
そういうと宮田はふぅと大きな息を吐き、
「さっさと行くぞ」
と吐き捨てた。
2歩ほど遠かった距離が、3歩に広がった気がした。