33.問答
お名前設定はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
メインイベントだというタイトルマッチ。
激しい乱打戦になり、4ラウンドKOでチャンピオンが王座を死守した。
腫れ上がった顔でインタビューをうける王者がなんか痛々しく。
なぜか宮田を重ねてしまい、直視ができない。
「ねえお母さん、もう帰ろう」
「ん?インタビューまだ終わってないじゃない」
「そうだけど・・・終わってからだと電車が混むと思うから・・・」
娘の言うことに一理あると思ったのか、母親は「そうね」と呟いて立ち上がった。会場を出る直前に全体を見回してみると、宮田が壁に背を預けて勝利者インタビューを聞いている姿がまだあった。
「はぁ、やっぱり生でみると違うわね〜」
「・・・うん」
「何よ、元気ないわね」
「別に・・・」
帰りの電車で、まだ興奮冷めやらずと言った母親とは対照的に、奈々は青白い顔をしながら窓の外を眺めていた。
試合は宮田の一方的なKOで終わり、メインイベントだって見応えのあるKO劇だった。普通なら興奮はしても、落ち込む要素などどこにもないと言うのに。
母親はハシャギすぎたツケでも回ってきたか、だんだん口数が減って、しまいにはつり革を掴んだままウトウトし始めた。幸にして目の前の席が空いたので母親を座らせ、自分はその前に立つ。
そして窓に映る自分を見ながら、頭にずっと流れ込んでくるリプレイを思い浮かべる。
バチッ、バシッと響く打撃音。
飛んでくる血しぶき。
大の字に倒れ、ピクリとも動かなくなる人。
それを見下ろす人。
それに、興奮する人。
生々しい生と死のスペクタクル。
宮田の住む世界は自分からは遠い国のようだ。
母親のように無邪気に興奮することなんて到底できない。
たっちゃんの試合は、がんばれがんばれって応援できたのに。
どうして宮田の試合は、応援できないんだろう。
試合の日までずっと張り詰めた顔してて。
ご飯もロクに食べないで、痩せていって。
それなのに、試合はあんな楽しそうに…
私のことなんてまるで忘れて、遠くに行ってしまったみたいに…
そう思うと、あのリングが自分の大切な人を奪う存在にしか見えなくなってくる。
もし、試合中や試合後に何かあったら・・・それでも応援しつづけられる?
大好きな人が大好きなものを、認められない。
命をかけて挑んでいるものを、直視できない。
戦いに行く背中を引き戻したくなる。
私は宮田には・・・相応しくない。
じゃあ、宮田はどう?
宮田は私に・・・相応しいの?