30.甘ったれるな
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宮田の言葉を受け、木田は心配そうな表情を浮かべながらも、応接室を後にした。
一方で父親はまだ興奮が冷めやらぬ様子で息子を凝視している。
「お前・・・何をやっている。鴨川ジムをやめて一人暮らしをすると言い張って、その挙げ句がこのザマか?」
「ボクシングには何の支障も出てないだろ」
息子の言葉を受けて宮田父は再び掌を振り上げたが、すでに覚悟を決めた息子の鋭い眼差しを受けて、踏みとどまった。
「ボクシングだけが全てじゃない。ただ高校生である以上、学業もしっかりやれと言ったはずだ。その条件を覆すのなら一人暮らしなど認められない」
「試験はちゃんと通ってる。単位は落としてない」
「そういう意味ではない!屁理屈を捏ねるな!」
宮田父はそう言って今度は身近に落ちていた漫画雑誌を振り上げ、息子の頭に振り下ろした。
ドっと鈍い音が響く。ドアの外で待機している木田は、気が気ではない。
「最近特に集中力を欠くと思っていたが、その原因がお前の彼女にあるのなら・・・・」
宮田父は、ふぅっと深いため息をついて、さらに続けた。
「もう、終わらせたらどうだ」
父親の口からも、ききたくのない言葉が発せられる。
つくづく嫌になる、と宮田は苛立ちを隠しきれずに反論した。
「アイツは関係ない」
「学校までサボっておいて関係なくはないだろう」
「でも、も・・」
「“もうしない”なんて言う気じゃないだろうな?甘ったれるな!」
言おうとしたセリフを先回りされて宮田はなす術なく口をつぐむ。
「いいか一郎、当初の約束を忘れるな。お前はボクサーではあるが、高校生なんだ。きちんと学校に行って勉強するその前提でボクシングがある、分かるな?」
以前から父は、息子がボクシングに傾倒するあまり他の全てを疎かにしがちなことを気にしていた。ボクシングに専念したいと懇願された一人暮らし、それをさせるための条件は、家賃や光熱費以外の生活費を自分で稼ぐことと、学業を疎かにしないことだった。
幼い頃からボクシング一筋で生きてきた宮田は、中学卒業時にも高校へ行かず働きながらボクシングをする選択肢を選びかけたが、引退後の就職活動がなかなか厳しかった宮田の父は自分自身の経験から最低限の学歴だけは息子に身につけさせようと、進学を必死に説得したこともあった。
本来なら、大学にだって進んでほしい、そんな親心もある。そのために家も売り、それなりの資金も貯めてあるのだが、肝心の息子は取りつく島もない。
「分かったんなら、今日はもういい。やることやって帰れ。私は仕事に戻るからな」
宮田父は仕事を中抜けして駆けつけたらしかった。
チラリと時計に目をやり、思ったより時間がかかったことを知ったか、小さく”いかんな”と呟いてドアノブに手をかけた。
「父さん」
「なんだ?」
宮田はソファに座って下を向いたまま、小さく小さく呟く。
「ごめん」
バタン、とドアの閉まる音だけが返ってきた。
一方で父親はまだ興奮が冷めやらぬ様子で息子を凝視している。
「お前・・・何をやっている。鴨川ジムをやめて一人暮らしをすると言い張って、その挙げ句がこのザマか?」
「ボクシングには何の支障も出てないだろ」
息子の言葉を受けて宮田父は再び掌を振り上げたが、すでに覚悟を決めた息子の鋭い眼差しを受けて、踏みとどまった。
「ボクシングだけが全てじゃない。ただ高校生である以上、学業もしっかりやれと言ったはずだ。その条件を覆すのなら一人暮らしなど認められない」
「試験はちゃんと通ってる。単位は落としてない」
「そういう意味ではない!屁理屈を捏ねるな!」
宮田父はそう言って今度は身近に落ちていた漫画雑誌を振り上げ、息子の頭に振り下ろした。
ドっと鈍い音が響く。ドアの外で待機している木田は、気が気ではない。
「最近特に集中力を欠くと思っていたが、その原因がお前の彼女にあるのなら・・・・」
宮田父は、ふぅっと深いため息をついて、さらに続けた。
「もう、終わらせたらどうだ」
父親の口からも、ききたくのない言葉が発せられる。
つくづく嫌になる、と宮田は苛立ちを隠しきれずに反論した。
「アイツは関係ない」
「学校までサボっておいて関係なくはないだろう」
「でも、も・・」
「“もうしない”なんて言う気じゃないだろうな?甘ったれるな!」
言おうとしたセリフを先回りされて宮田はなす術なく口をつぐむ。
「いいか一郎、当初の約束を忘れるな。お前はボクサーではあるが、高校生なんだ。きちんと学校に行って勉強するその前提でボクシングがある、分かるな?」
以前から父は、息子がボクシングに傾倒するあまり他の全てを疎かにしがちなことを気にしていた。ボクシングに専念したいと懇願された一人暮らし、それをさせるための条件は、家賃や光熱費以外の生活費を自分で稼ぐことと、学業を疎かにしないことだった。
幼い頃からボクシング一筋で生きてきた宮田は、中学卒業時にも高校へ行かず働きながらボクシングをする選択肢を選びかけたが、引退後の就職活動がなかなか厳しかった宮田の父は自分自身の経験から最低限の学歴だけは息子に身につけさせようと、進学を必死に説得したこともあった。
本来なら、大学にだって進んでほしい、そんな親心もある。そのために家も売り、それなりの資金も貯めてあるのだが、肝心の息子は取りつく島もない。
「分かったんなら、今日はもういい。やることやって帰れ。私は仕事に戻るからな」
宮田父は仕事を中抜けして駆けつけたらしかった。
チラリと時計に目をやり、思ったより時間がかかったことを知ったか、小さく”いかんな”と呟いてドアノブに手をかけた。
「父さん」
「なんだ?」
宮田はソファに座って下を向いたまま、小さく小さく呟く。
「ごめん」
バタン、とドアの閉まる音だけが返ってきた。