29.忘れねぇから
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二人が床に倒れ込んでいる間にまた電話が鳴った。
それは何か隣の家の電話でも鳴っているかのように、遠くの出来事のように感じられた。
宮田の叫んだ言葉の一つ一つが胸に刺さって、床に磔にされたみたいに動けない。
聞きたかったはずの甘い言葉も、今となっては断末魔の叫びのように聞こえる。
程なくしてドンドンとドアを叩く音と、インターホンのチャイムが同時に鳴った。
「一郎!いるのか!?」
ガチャリと鍵穴に鍵を差し込みドアを回す音が聞こえ、その隙間から父親の声が響いた。と同時に、ドアがチェーンに引っかかり止まる鈍い音がした。
玄関に女の子のローファーが置いてあるのを目にし、彼女を連れ込んでいると確信した父親はますます呆れた声で
「一郎!?お前・・・何やってる!?家にいるんだな?どうして電話にでない!?」
宮田は心底うんざりした顔でゆっくりと体を起こし、玄関まで行くと
「・・・理由は後から話すから、今は出て行ってくれ」
「一郎!」
息子が今まで見たこともないような悲痛な表情を浮かべていることに気づいた父親は、その後に浴びせるべき罵声をグッと飲み込んでしまった。その一瞬の隙に宮田はドアノブを勢いよく引いて、再び鍵をかけた。
バタンと無情に閉まったドアの前で父は心配と怒りが入り混じった何とも不思議な心持ちをどこにも捨てられないまま、すごすごと車へ引き揚げて行った。
部屋に戻ると奈々は服を正し、ベッドに背を預けて床に座り込んでいた。
宮田もその横に腰掛けて、黙って同じ方向を見る。
宮田父の来訪で自分たちが早退したことが意外と大事になっていることに気づき、今し方の緊張感が溶けて、意識が現実に引き戻されつつあった。
「・・・帰る」
そう言って立ち上がろうとした奈々の腕を宮田が掴む。
「まだ話は終わってない」
「・・・じゃあ、言ってよ。聞くから」
「オレは全部言ったが、お前からは何も聞いてない」
「言うことなんてない」
「・・・!あのなぁ・・・」
「だって!!」
奈々は掴まれた腕を振り解いて、宮田の方を振り返った。
目はすでに真っ赤に充血していて、一度乾いたはずの涙が再び溢れ出そうになっている。
「言ったところでどうなるの!?何が変わるの!?宮田は変わってくれるの!?変わらないでしょ!?」
奈々はそれから宮田の胸に飛び込んで、わぁわぁと泣きながら続けた。
「私だって宮田が好きだよ!大好きだよ!離れたくなんかない!ずっと一緒にいたい!誰にも取られたくない!だけど・・・・だからこそ・・・!」
そう言いながら、宮田の学生服を握り潰している二つの手は小刻みに震えている。
「だからこそ・・・苦しい。寂しくて・・・辛い。もうこんな思い・・・したくない!」
宮田のために身を引くなんてのは、嘘。
宮田のせいで苦しいのが本当。
だけど、宮田のことが大好きなのは嘘じゃなくて。
宮田のおかげで幸せなのも本当なのに。
「オレは納得できない」
宮田は極めて冷静な声で、呆れたように呟いた。
お互いにまだ気持ちは繋がっているのに。
どうして、そんな答えを選ばなければならない?
「11月22日」
宮田から思わぬ単語が飛び出し、奈々は考えるより先に顔を上げた。
宮田は気恥ずかしそうに目線を逸らし、驚く奈々を抱きしめて続ける。
「ちゃんと覚えたからな」
それは二人が付き合い始めた1周年の日付。
前回会った時に「1周年は5日後」と放った一言を覚えていたようだ。
「来年は忘れねぇから」
宮田の言葉に、奈々はただ小さく「うん」と言う他なかった。
二人が床に倒れ込んでいる間にまた電話が鳴った。
それは何か隣の家の電話でも鳴っているかのように、遠くの出来事のように感じられた。
宮田の叫んだ言葉の一つ一つが胸に刺さって、床に磔にされたみたいに動けない。
聞きたかったはずの甘い言葉も、今となっては断末魔の叫びのように聞こえる。
程なくしてドンドンとドアを叩く音と、インターホンのチャイムが同時に鳴った。
「一郎!いるのか!?」
ガチャリと鍵穴に鍵を差し込みドアを回す音が聞こえ、その隙間から父親の声が響いた。と同時に、ドアがチェーンに引っかかり止まる鈍い音がした。
玄関に女の子のローファーが置いてあるのを目にし、彼女を連れ込んでいると確信した父親はますます呆れた声で
「一郎!?お前・・・何やってる!?家にいるんだな?どうして電話にでない!?」
宮田は心底うんざりした顔でゆっくりと体を起こし、玄関まで行くと
「・・・理由は後から話すから、今は出て行ってくれ」
「一郎!」
息子が今まで見たこともないような悲痛な表情を浮かべていることに気づいた父親は、その後に浴びせるべき罵声をグッと飲み込んでしまった。その一瞬の隙に宮田はドアノブを勢いよく引いて、再び鍵をかけた。
バタンと無情に閉まったドアの前で父は心配と怒りが入り混じった何とも不思議な心持ちをどこにも捨てられないまま、すごすごと車へ引き揚げて行った。
部屋に戻ると奈々は服を正し、ベッドに背を預けて床に座り込んでいた。
宮田もその横に腰掛けて、黙って同じ方向を見る。
宮田父の来訪で自分たちが早退したことが意外と大事になっていることに気づき、今し方の緊張感が溶けて、意識が現実に引き戻されつつあった。
「・・・帰る」
そう言って立ち上がろうとした奈々の腕を宮田が掴む。
「まだ話は終わってない」
「・・・じゃあ、言ってよ。聞くから」
「オレは全部言ったが、お前からは何も聞いてない」
「言うことなんてない」
「・・・!あのなぁ・・・」
「だって!!」
奈々は掴まれた腕を振り解いて、宮田の方を振り返った。
目はすでに真っ赤に充血していて、一度乾いたはずの涙が再び溢れ出そうになっている。
「言ったところでどうなるの!?何が変わるの!?宮田は変わってくれるの!?変わらないでしょ!?」
奈々はそれから宮田の胸に飛び込んで、わぁわぁと泣きながら続けた。
「私だって宮田が好きだよ!大好きだよ!離れたくなんかない!ずっと一緒にいたい!誰にも取られたくない!だけど・・・・だからこそ・・・!」
そう言いながら、宮田の学生服を握り潰している二つの手は小刻みに震えている。
「だからこそ・・・苦しい。寂しくて・・・辛い。もうこんな思い・・・したくない!」
宮田のために身を引くなんてのは、嘘。
宮田のせいで苦しいのが本当。
だけど、宮田のことが大好きなのは嘘じゃなくて。
宮田のおかげで幸せなのも本当なのに。
「オレは納得できない」
宮田は極めて冷静な声で、呆れたように呟いた。
お互いにまだ気持ちは繋がっているのに。
どうして、そんな答えを選ばなければならない?
「11月22日」
宮田から思わぬ単語が飛び出し、奈々は考えるより先に顔を上げた。
宮田は気恥ずかしそうに目線を逸らし、驚く奈々を抱きしめて続ける。
「ちゃんと覚えたからな」
それは二人が付き合い始めた1周年の日付。
前回会った時に「1周年は5日後」と放った一言を覚えていたようだ。
「来年は忘れねぇから」
宮田の言葉に、奈々はただ小さく「うん」と言う他なかった。