「電話・・・鳴ってるけど」


宮田は電話を取る気など全くないらしい。鳴り続ける電話を無視して、一歩こちらに詰め寄って来た。


「オレは別れたつもりなんてない」


冷静な口調ながらも、沸沸と滾る静かな怒りの蒸気は隠しきれずに体を覆っている。
宮田と喧嘩したことがないわけではないのに、これほどまでの怒りを向けられたことなどなかった奈々は、頭を上げることすらできないでいる。


「兄貴に慰めてもらいたいなら、オレをダシに使うな」



宮田からの予想外の攻撃に、奈々はハッと顔を上げる。
威圧された恐怖と混乱の中で突如湧き上がって来た怒りは、コントロール可能な領域を軽く超えて一気に溢れ出て来てしまった。


「何よその言い方！」
「何も間違ってねぇだろ。いつ別れたんだよ？ありもしねぇこと言いやがって」
「何も違わない！ありもしないことじゃない！だってそうでしょ！？」

奈々は思わず宮田の胸ぐらを掴むような形で攻め寄り声を荒げた。


「宮田は私のことなんか好きでもないくせに！」


胸が張り裂けそうな奈々の叫びを聞いて宮田はさらに顔色を変え、奈々を床に押し倒した。

そうして制服の下に手を伸ばし、抵抗する腕をさらに強く床に押さえつけた。


「やっ・・・やだっ・・・やめて！やめてよ！」
「・・っるせぇな」
「離して！それが目的ならもう帰る！！」
「んなわけねえだろ！！」


宮田が大声を張り上げたので、奈々は恐怖のあまり体を硬らせ言葉を失った。
宮田は腕を床に押し付ける力を緩めることなく続ける。


「好きだよ！！好きに決まってんだろ！！そうじゃなかったら、こんなに悩むかよ！！」


宮田は奈々が震えているのを感じて咄嗟に力を緩め、そのまま顔を首元に沈めて言った。


「でも、お前は・・・それだけじゃダメなんだろ」


宮田は絞り出すような声で言い、グッと拳を床にめり込ませるようにして力を入れている。


「分かってるよ、そのくらい。だけど・・・」









「オレには、できない」