「図星かよ」
「・・・いい加減にしろ」
「何が？」
「アンタが首突っ込んでくるたびに、ややこしくなるんだよ」
「はぁ？オレのせいだってのかよ？」


変な言いがかりをつけられて不愉快極まりない木村は、ググッと半身を起こしながら反論する。しかしすぐさま宮田に押し返され、木村はぐあっと苦しそうな声を上げる。


「そうだよ」
「はあ？」
「アンタのせいだ」


宮田が珍しく他人を責めるようなことを口にしたので木村は内心激しく動揺した。
しかしそれを悟られないように、ワッと大きな声を上げたくなるのを抑えながら、


「・・・テメェ、とうとうそこまで女々しくなったか」
「そういう意味じゃない」
「じゃあ、どういう・・・」
「アイツの」


宮田はさらに木村に体重をかけ、体を床に押し付ける。
木村は苦しそうな呻き声を上げたまま、しかし宮田の目線から目は離さないでいた。



「アイツの理想は・・・アンタなんだよ」



思ってもいない言葉が宮田の口から飛び出し、木村は言葉を失った。
そこまで吐き出すと宮田は、何か観念したように力を緩め、木村から体をどかして、ベッドにもたれるようにして座った。


「アイツは・・・アンタとやりたかったことをオレで叶えようとして」


木村は咳き込みながら体を起こし、後ろ手をつきながら宮田の方に目をやった。
宮田はうつむきながら、顔をあげようとしない。


「オレはとうの昔に、それは無理だと言ったつもりだったけど・・・」
「・・・宮田、お前・・・」


木村は宮田の元へそろそろと駆け寄り、項垂れている宮田の顔を覗き込むようにしながら、


「泣いてんのか？」
「んなわけねぇだろバカ」
「ば、バカって、お前、オレ一応年上だぞ！？」


宮田は泣いてこそいなかったが、稀にみる珍しいほど悲しそうな、辛そうな顔をしていた。茶化そうと思っていた木村も思わず胸を打たれ黙り込む。


「アイツが別れたとか言ってんのは・・・アンタの気を引きたいんだろ」
「お、お前・・・ひねくれすぎだろそれ」
「とにかく一度、アイツと話をするから。アンタはもうこれ以上出てこないでくれ」


いつもの宮田を取り戻したのか、顔を上げたときには再び例の射抜くような鋭い目線で木村を睨みつけていた。


「わ、わぁったよ・・・だけど」


木村は玄関先で靴を履きながら、見送りにもこないで部屋で座り込んでいる宮田に呼びかけるように言った。


「オレ・・・・やっぱり放っておけねぇよ、アイツのこと」


宮田からの返事はなかった。
木村は静かに玄関のドアを開け、家を後にした。
ガチャンと扉の閉まる音を聞いてから宮田は徐に立ち上がり、鍵をかける。






「知ってるよ」



宮田は誰もいない玄関に向かって呟く。