「・・・・なんでだよ」


衝撃的な言葉の前でも、宮田は極めて冷静に答えを返す。
宮田自身は単に、自分の心にもない出鱈目を言われたに過ぎないからだ。
目の前の相手がただ、寂しさをこじらせてイジけているだけとしか思えなかった。


「オレが構ってやれてないのは事実だが、変な解釈をするな」


呆れたようにため息をついて、自分の愛情を疑われたことに対する不快感を隠そうともせず、宮田は強い口調で責めるように言う。


「オレだって何も考えてないわけじゃない」
「宮田が」


遮るように奈々が口を開く。


「ボクシングにバイトに忙しいのは分かってるの・・・私のことまで頭が回らないのも分かってるの・・・」
「じゃあ、」
「でもそれ以前に」


宮田の言葉を遮ってやや声を荒げる。
止まりかけていた涙が再び、洪水のように溢れてきた。


「宮田が私のこと・・・重たいと思ってるのも・・・・わかるの」




宮田は心の奥底で見ないふりをしていたものを目の前に突きつけられたような気がして、心臓がドクンと波打つ大きな音が体の中に響いた。


「だったら・・・そんなもん、買わねぇだろ」


ちらりとブレスレットの方に目をやりながら宮田が呟く。
明らかに動揺を隠しきれない様子だ。



「私はあの猫と・・・同じだよ」
「どこが」
「宮田は同情・・・・しただけなんだよ」
「はあ？」
「私がいてもいなくても、宮田は何も変わらない」


奈々は手首のブレスレットを外して、鎖をギュッと手の中に握りしめた。


「だけど・・・私は宮田がいないと寂しいから・・・だから宮田は居てくれるんでしょう？」


そう言いながら、宮田の目の前に、ブレスレットを握った拳を突き出した。


「これは・・・・受け取れない」


宮田は突き出された拳に対して、何も反応できないでいる。
すると奈々は宮田のコートのポケットに無理やりブレスレットを突っ込んで、



「ごめん」




と言いながら、走り去った。