27.優しいから
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電話で一言、「空けとけよ」と言われた週末の夕方。
待ち合わせ場所まで行くと、宮田が背を壁に預けて立っているのが見えた。奈々が小走りで駆け寄る音に気づいたのか、片目を開けてこちらを見遣る。
「ご、ごめん。ちょっと電車が遅れて」
「別にいいよ。とりあえず行こうぜ」
「うん」
宮田がボクシングやバイトで忙しい中でも、週末のどちらか、短時間だけ宮田の家で会うことは時々あった。
家で会うと言うことはつまり、そう言うコトをすると言うことであって・・・・それ以上でも以下でもなかった。
“デートをする”なんてもう、何ヶ月ぶりのことだろうか。今までどんなふうに隣を歩いていたかも、すっかり忘れてしまっていた。
自然に絡めていたはずの指と指が今は遠くて、決して誘ってこない意固地な背中に苛立ちを覚える。
これから行くのは宮田が予約してくれたお店。
一体どんなところへ連れて行かれるのかと思ったら、外壁につたが伸び、古風なレンガの外壁がつたの合間から垣間見えるような、どこか異国の地の片隅にある隠れ家風のたたずまいが目に入ってきた。
リクエストなんてまるで聞かれてないけど、好みドンピシャのお洒落な洋食屋。
「わ・・・」
「ちょっと早いけど、いいか?」
「うん」
宮田がドアを開けると、涼やかなガラスのドアベルが小さく響いた。
「宮田・・・いいお店知ってるね」
メニューと内観を交互に眺めながら、奈々が感心しきって聞くと、
「何度か来たことがあってな。味は保証するよ」
「そ、そうなの?」
どんな縁で?何が理由で?誰と来たの?
昔は何の気なしに口から出ていってたはずの言葉が、なぜか喉の奥に引っかかり出せないでいる。
すると宮田の足元に、茶色のトラ猫がミャーと言いながらすり寄ってきた。
宮田はポーカーフェイスのままで猫の頭を撫でてやる。
「こらこら、シュガー。ごめんなさいね宮田くん」
ギャルソンエプロンをつけた小綺麗な女主人が奥から出てきて、宮田にまとわりついている猫を笑いながら諫めた。見た感じ、宮田とは既知の関係のようだ。
「シュガーったらヤキモチかしら。宮田くんが可愛い彼女なんか連れてくるから」
「・・・こいつオスですよね」
「あら、愛に性別は関係ないわよ」
談笑する二人の前で奈々が目を点にしたまま様子を伺っていると、
「宮田くんはね、私たちの恩人なのよ」
と女主人が優しく微笑んで言った。