初恋
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初恋は実らない、と言われる。
確かに、私の初恋は、一度無残に散った。
もう、終わりだと思っていた。
散った花びらは、地面に重なって、
泥だらけになって、無残に枯れていって
もう見たくないほど、
汚くなってしまっていたのに
それはやがて、土に還り、
木々の養分になって、
そしてまた、季節を変えて……
新しい花を咲かせるんだ。
______________
あれから、数日後。
「明日ね、ミズキとデートなんだ」
電話越しに奈々が言うと、宮田は「そうか」と簡単な相槌を打って答える。
「オレのことは話したのか?」
「あー・・・・・うん」
付き合い始めた当日の夜にはもうすでに報告していたのだが、こういった女子の特急連絡網を男子がどう思うかわからなかったので、とりあえず言葉を濁しておく。
「じゃあ、よろしく言っておいてくれ」
「・・・わかったけど、どうしたの」
宮田は基本的に他人に対して関心の薄いタイプなので、このようなことを言うだけでも非常に珍しい。
「別に」
奈々の不思議そうな態度がやや不満なのか、宮田はまたそっけない態度を返す。
宮田の「別に」には慣れっこな奈々は、特に気にせずにまた別の話題を切り出した。
__________
「宮田が、よろしく伝えてくれって」
平日の夕方ともあって人もまばらな喫茶店で落ち合った二人は、いつもの席で向かい合ってコーヒーをすすっていた。
「・・・・ふふふ」
「ねえ、何その含み笑い・・前も見たことあるような」
ミズキはニヤニヤと緩む顔面のコントロールを失っていた。
何かを思い出したように口に手を当てては、目元が緩んでくる。
その仕草をもう何往復もさせていた。
『あたしの奈々を泣かせるなんて許せない!!』
『・・・もう泣かせねえよ』
前回、この喫茶店で繰り広げた攻防を思い出しては、ニヤニヤが止まらなくなるのだ。
「で、どうだね高杉くん、初恋は?」
自分は例の“たっくん”と数年来の付き合いを続けている自負があるのか、ちょっと先輩ヅラで腕を組みながら聞いてきたミズキ。
「まだ数日しか経っていないのですが」
先輩に対して口を聞くように、敬語を使って奈々が答える。
「地に足がついていない感じがいたします」
「うむ」
二人同時にコーヒーをすすり、そして大爆笑した。
目からこぼれ落ちた涙にはもう、悲しい味はしなかった。
END